ダイアリーからブログに引越しました。 http://misui.hatenablog.com/

2011年 庄内原神楽座

去年10月のもの。県内有数の神楽座を呼んで大盛り上がりでした。

『青白い炎』第一篇(その6)

微かな痛みの一筋が 戯れの死に引き寄せられ、ふたたび遠のきはするが しかしいつでも存在していて、わたしを駆け抜ける。 ちょうど十一歳になったある日のこと わたしは床にうつ伏せに寝そべって、ぜんまい仕掛けのおもちゃ―― ブリキの少年が押すブリキの手…

9月第2週

江戸川乱歩全集〈第4巻〉孤島の鬼 (1978年)posted with amazlet at 12.09.09江戸川 乱歩 講談社 売り上げランキング: 1214857Amazon.co.jp で詳細を見る 「孤島の鬼」 主人公・箕浦は同性の友人から好意を寄せられながらも女性と交際しているが、ある日、彼…

眠りの淵で

眠りの淵で 映画が終わり グラスの水滴が流れて 伝わっていく泉に 手を浸す 深夜のこと 頬にスタッフロールは 逆さに雨となり 取り返しのつかない 早回しにも似て 繁茂した 森の奥に隠されている 戸を抜けて やがて幻と 影と溶け合うだろう そっと 水草を揺…

Incantation

Incantation 指に取った 灰を 目蓋にこすりつけるようにして 受け入れる覚醒を 外光が 青くあなたの胸に入りこむ 胸に幾筋の 線を流して 待っている――待っている 片方だけ裏返ったスリッパは まだ夢を見ていて ドアが 開けられるのを願う 外では 日に暖めら…

灯台

灯台 鳥の 輪を描くように 腕の中で時計を 守ってほしい 日に細かな気泡の浮かぶ ガラスの器に 首の折れたストローを挿して 二重になった影を 辿ってほしい 絡めた指先から 震えとともに 雨を奏でて しなる帆を 闇の赤に沈める 湾を 終わらせてほしい

束の花

束の花 淡い音 はなればなれに息 まぎれ 生い茂るものの朝 皺の寄った 星のスカートは どんな夢を見ている? 高空に静止して 流れていかない雲を つかもうとした 夏の花 削り取った窓に 首だけ出して あなたの物語を寿ぐ いつまでも いつまでも 時が声をひそ…

9月第1週

最期の九龍城砦 完全版posted with amazlet at 12.09.02中村 晋太郎 新風舎 売り上げランキング: 289007Amazon.co.jp で詳細を見る九龍城砦ははじめ清朝の砦として生まれ、アヘン戦争によるイギリス・清朝の政治的混乱から一種の主権空白地となって難民が流…

追想

追想 瞳を 置き去りにした 夢見ながら 止まった時を遡り 写真の中で あらわな通せんぼうをしている 視界は遮られ 鼓動は 手遊びのように 雑草のように 刈り取られると ぶら下がった足を揺らし 木陰を作ったかと思えば 緑が覆う 水面に明るく 漂う花を 上手に…

『青白い炎』第一篇(その5)

さらに、そこには音の壁がある。秋になり 無数のコオロギに築きあげられた夜の壁が。 立ち止まらずにはいられない! 丘の中腹で わたしは足を止め、虫たちの熱狂にうっとりと耳を傾けた。 あれはサットン博士の家の灯り。あれは大熊座だ。 千年前、五分間は …

8月第4週

狂言―落魄した神々の変貌 (平凡社ライブラリー (226))posted with amazlet at 12.08.26戸井田 道三 平凡社 売り上げランキング: 823883Amazon.co.jp で詳細を見る神事が芸能へ、あるいは神々が落魄して芸能の場に現れるというような民俗学の論理にはさして興…

『青白い炎』第一篇(その4)

わたしは親愛なる叔母のモードに育てられた。 風変わりな叔母は詩人であるとともに画家であり グロテスクな成長と滅びのイメージが絡み合った 写実的な事物を好んでいた。 隣室の赤子の泣き声を聞きながら彼女が暮らした部屋は そのまま手を加えずにおかれた…

8月第3週

現代日本文学大系〈77〉太宰治・坂口安吾集 (1969年)posted with amazlet at 12.08.18筑摩書房 売り上げランキング: 1241368Amazon.co.jp で詳細を見る安吾だけ。戦後の状況と合わせて読むなら「白痴」「堕落論」が重要と思うが、どうも自分はこの人と反りが…

夏型

夏型 蝶が 土にたかり 互いの喉に触れ 青い夢を見せる 幾度もの成熟 生まれ変わりを 軌跡を描き 焦がされている 羽が また地面に落ち 辿りつけない木陰に 終わらない あなたが死んで 永遠が 死んで永遠が 生きながら この喉を 青い夢を見せる 終わらない 羽…

8月第2週

デルスウ・ウザーラ―沿海州探検行 (東洋文庫 (55))posted with amazlet at 12.08.11アルセーニエフ 平凡社 売り上げランキング: 54942Amazon.co.jp で詳細を見る1907年、北海道とは海を隔てた極東ロシアの一地帯を、著者アルセーニエフは少数の人員をともな…

今週の「青白い炎」はお休みします。

『青白い炎』第一篇(その3)

家自体はさほど変わっていない。翼棟をひとつ 改築しただけだ。その翼棟にはサンルームがあり 見晴らし窓のそばには、意匠を凝らした椅子が備え付けてある。 身動きの取れぬ風見鶏に代わり、今は 大きなペーパークリップ状のテレビアンテナが光っていて 無邪…

8月第1週

敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人posted with amazlet at 12.08.04ジョン ダワー 岩波書店 売り上げランキング: 96923Amazon.co.jp で詳細を見る下巻は主に政治の話。天皇の戦争責任の回避、憲法制定の内幕、検閲、東京裁判や「一億総懺悔」…

『青白い炎』第一篇(その2)

あらゆる色彩がわたしを愉しませた。灰色でさえも。 わたしの眼はまさしく写真機のようにはたらいたのだ。 心のおもむくままに眺めたり、あるいは、興奮を抑えつつ 無心に見つめるときにはいつでも 視界に入るものは何であれ―― 室内の風景、ヒッコリーの葉、…

7月第5週

現代日本文学大系〈89〉深沢七郎,三浦朱門,有吉佐和子,水上勉集 (1972年)posted with amazlet at 12.07.28筑摩書房 売り上げランキング: 1110073Amazon.co.jp で詳細を見る短篇だけ選んで読んだ。深沢七郎「楢山節考」「東北の神武たち」「南京小僧」、三浦…

『青白い炎』第一篇(その1)

ナボコフ『青白い炎』の詩篇を訳していきます。過去に詩を訳した経験がなく、語学力も雀の涙なので、かなり苦しいものになると思いますが、自分が味わうことを第一義にやっていきます。アドバイス等ありましたらtwitterなどで伝えていただけると幸いです(微…

7月第4週

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人posted with amazlet at 12.07.21ジョン ダワー 岩波書店 売り上げランキング: 165237Amazon.co.jp で詳細を見る敗戦後の日本の模様がコンパクトにまとめられている。アメリカ人による占領を上から与えられ…

7月第3週

スペードの女王・ベールキン物語 (岩波文庫)posted with amazlet at 12.07.15プーシキン 岩波書店 売り上げランキング: 46981Amazon.co.jp で詳細を見る 「スペードの女王」 骨牌勝負の秘法をめぐる物語。秘法を知る老婦人に取り入ろうと主人公ゲルマンは画…

7月第2週

泉鏡花集 黒壁―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)posted with amazlet at 12.07.08泉 鏡花 筑摩書房 売り上げランキング: 115498Amazon.co.jp で詳細を見るこれも全集から読んだ。作品をまたいで登場する女の影が、最後には鏡花の追憶に通じる。いやこの選は素晴…

7月第1週

改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)posted with amazlet at 12.07.01W G ゼーバルト 白水社 売り上げランキング: 10471Amazon.co.jp で詳細を見る車窓から見える冥界じみたライン流域の眺め。 黄昏に物憂く流れる河、船べりまで水に浸かって…

6月第4週

おばけずき 鏡花怪異小品集 (平凡社ライブラリー)posted with amazlet at 12.06.24泉 鏡花 平凡社 売り上げランキング: 129138Amazon.co.jp で詳細を見る鏡花の怪談周りの作を集めたアンソロジー。本書を買ったわけではないのだけど、収録作品一覧を参考に全…

6月第3週

変身 (新潮文庫)posted with amazlet at 12.06.17フランツ カフカ 新潮社 売り上げランキング: 1991Amazon.co.jp で詳細を見るナボコフの言葉に従って、グレーゴルの昆虫としての細部描写、また、彼の優しい人間性に注目して読んだ。たしかに描写が細かくな…

6月第2週

アムネジアposted with amazlet at 12.06.10稲生 平太郎 角川書店 売り上げランキング: 419093Amazon.co.jp で詳細を見る再読。新聞の片隅に見つけた死亡記事をきっかけに、主人公は数千億の金が動く闇金融の世界へ、そして永久機関や殺人、チョコレート・ケ…