『青白い炎』第一篇(その6)

微かな痛みの一筋が 戯れの死に引き寄せられ、ふたたび遠のきはするが しかしいつでも存在していて、わたしを駆け抜ける。 ちょうど十一歳になったある日のこと わたしは床にうつ伏せに寝そべって、ぜんまい仕掛けのおもちゃ―― ブリキの少年が押すブリキの手…

『青白い炎』第一篇(その5)

さらに、そこには音の壁がある。秋になり 無数のコオロギに築きあげられた夜の壁が。 立ち止まらずにはいられない! 丘の中腹で わたしは足を止め、虫たちの熱狂にうっとりと耳を傾けた。 あれはサットン博士の家の灯り。あれは大熊座だ。 千年前、五分間は …

『青白い炎』第一篇(その4)

わたしは親愛なる叔母のモードに育てられた。 風変わりな叔母は詩人であるとともに画家であり グロテスクな成長と滅びのイメージが絡み合った 写実的な事物を好んでいた。 隣室の赤子の泣き声を聞きながら彼女が暮らした部屋は そのまま手を加えずにおかれた…

『青白い炎』第一篇(その3)

家自体はさほど変わっていない。翼棟をひとつ 改築しただけだ。その翼棟にはサンルームがあり 見晴らし窓のそばには、意匠を凝らした椅子が備え付けてある。 身動きの取れぬ風見鶏に代わり、今は 大きなペーパークリップ状のテレビアンテナが光っていて 無邪…

『青白い炎』第一篇(その2)

あらゆる色彩がわたしを愉しませた。灰色でさえも。 わたしの眼はまさしく写真機のようにはたらいたのだ。 心のおもむくままに眺めたり、あるいは、興奮を抑えつつ 無心に見つめるときにはいつでも 視界に入るものは何であれ―― 室内の風景、ヒッコリーの葉、…

『青白い炎』第一篇(その1)

ナボコフ『青白い炎』の詩篇を訳していきます。過去に詩を訳した経験がなく、語学力も雀の涙なので、かなり苦しいものになると思いますが、自分が味わうことを第一義にやっていきます。アドバイス等ありましたらtwitterなどで伝えていただけると幸いです(微…