9月第2週

江戸川乱歩全集〈第4巻〉孤島の鬼 (1978年)
江戸川 乱歩
講談社
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「孤島の鬼」
主人公・箕浦は同性の友人から好意を寄せられながらも女性と交際しているが、ある日、彼女が密室内で殺されてしまう。探偵を交えて事件を調査するうちに忌まわしい事実が浮かび上がり…。前半は推理、後半は冒険と、がらりとトーンが変わる。推理部分は煽るわりには腰砕けのトリックで、乱歩はミステリとしてではなく幻想小説として読むべきと再認識した。盛り沢山の内容、真相の忌まわしさ、そして人外の獣と化すほどの執着の物凄さが見所。ただ、クライマックス後の投げやりな展開は…。
「猟奇の果」
こちらも前後編で雰囲気が変わる。不穏なドッペルゲンガー譚として始まった物語は、国家を転覆せしめるほどの大犯罪を追うものになっていく。変身・変装を重視するあたり、怪人二十面相などに繋がっていくのかも。

 

吉岡実風の詩は今読むとなかなかもたれる。鎌田喜八の作品も以前ほど感銘は受けなくなってきたが、それでも「エスキス 44」だけは変わらず良い。

閏日 負の日
見世物も商いも立たぬ日
地べた留守の日
ただの人零
 
除け者の日だ

http://www.interq.or.jp/www1/ipsenon/p/kamata3.html
 

『青白い炎』第一篇(その6)

微かな痛みの一筋が
戯れの死に引き寄せられ、ふたたび遠のきはするが
しかしいつでも存在していて、わたしを駆け抜ける。
ちょうど十一歳になったある日のこと
わたしは床にうつ伏せに寝そべって、ぜんまい仕掛けのおもちゃ――
ブリキの少年が押すブリキの手押し車――を見ていた。
それが椅子の脚を迂回してベッドの下に迷いこんだその時
突如として脳裏に陽の光が差した。
 
それからは闇夜。しかもこの上もない闇夜だ。
わたしは時空のいたるところに撒き散らされた気がした。
片足は山頂に
片手は波に濡れた浜の小石の下に
片耳はイタリアに、片目はスペインに
洞窟の中を血は流れ、脳は星となって瞬いた。
わたしの三畳紀は鈍く鼓動した。
更新世のはじめには目の端で輝く緑の斑点が
石器時代には氷のような悪寒が
そして肘の先の骨には未来のすべてがあった。
 
ある冬の間、いつも午後になると
そうした束の間の夢想に浸っていた。
いつしか夢は途絶えた。思い出もかすんでしまった。
わたしは健やかに育ち、泳ぎを教わりさえした。
けれども、汚れのない舌を用いることで
売女のみじめな欲情を慰めるよう強いられた小僧っ子みたいに
わたしは堕落し、脅かされ、誘惑された。
老医師のコルト氏が
募りゆく痛みの大半は取り除いたと明言してくれたのに
驚異の念はいまだ冷めやらず、恥辱は残り続けた。