2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

5月第5週

よもつひらさか往還作者: 倉橋由美子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2002/03メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (14件) を見る謎めいたバーテンダーの九鬼さんの作るカクテルを飲んであの世とも異界ともつかない酔郷に遊ぶ連作短編集。幻…

「五月闇」抄

ここで崖が崩れたことがあった 大勢が土の下に埋もれてしまい まとめて葬式を出すことに決まった それにはとむらいの家の数にだけ 茶碗をかけらに砕き 使者に持たせて知らせとする 各家がかけらを持ち寄れば 全き一個の茶碗ができあがる そうやって儀礼の場…

5月第4週

物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン (朝日文庫)作者: 大塚英志出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 2003/04メディア: 文庫購入: 12人 クリック: 138回この商品を含むブログ (139件) を見る「小説を書く」という行為を可能な限りマニュアル化して…

この畑では猿を作るという 春のある朝 まだ暗いうちに 大根のような葉を茂らせた畑から 泡の弾けるがごとき音を出して 猿が飛び出る 猿が土から勢いよく 無言で かつ しかめつらをして 農家はそれを収穫するでもなく 飛び出た猿がただ 空に浮かび上がって消…

5月第3週

夜々の旅―詩集 (1974年) (叢書・同時代の詩〈2〉)作者: 天沢退二郎出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 1974メディア: ? クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る初期から夢記述への過渡的な詩集と言っていいか。のちにつながる表現も散見されるが…

5月第2週

〈悪口〉という文化作者: 山本幸司出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2006/11/16メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 28回この商品を含むブログ (11件) を見る喧嘩や合戦の場における悪口や、儀礼的な「悪口祭」を取り上げて悪口の社会的な意味を探る。共同体…

竹林

ちょっと一曲流していってくれと 手を引かれた先にはいかにも豪農風の屋敷があり その内庭といおうか畑地といおうか 平らにならした広場にはすでに人が立ち集まっていた 聞けば数十年に一度の祭りの前祝いということで 今日ははなればなれの親族が集結し 当…

りゅうぐうのつかい

りゅうぐうのつかいを飲んでしまった 寒天のようだったから つい つるつると飲みこんでしまった せっかく遠いところから来てくれたのに まさか飲んでしまうとは と 母屋の人たちは驚いている わたしも驚いている とにかく体に水を足してやらなければいけない…

追放

かかとの痛みで目を覚ます 起き上がって見ると 猫がかじりついている しっしっと追い払う そしてまた夢に戻る 夢の中でわたしは井戸のそばにいる これから家に帰るところで 桶を抱えて立ちすくんでいる 早くしないと夜になる…… うだうだしているうちに 村の…

つづら

おおきなつづらを背負っている つづらを背負って鳥居をくぐる そこにまっ黒い小坊主が寄ってきて その中には割れた茶碗が入っているんだろう ぎっしり詰まっているんだろう と にやにや笑いながら言う にやにやにやにや笑っている わたしはかちんときて そん…

鬼に聞いた話

あそこらへん ほら 崖にでかい南無阿弥陀仏が彫られてるだろ 何百年も前から難所でなぁ 道が狭いっつうのもあるんだが 化けものが出るとか出ないとか まあ昔から危ないところなんだわ 五十年前にもあそこで 規模の大きい土砂崩れがおきてな 汽車が埋まったこ…

お好み焼き

お好み焼きちょうだい と声かけて 奥からハーイと生返事 大丈夫かなぁと思いながら しばらく待っていれば 窓の外に山が見える 頂上はきれいな銀灰色 杉の梢は空高く 引っ張ればぼろっと落ちそうだ と見る間に車椅子が転げてきて いやあれは乳母車かな ごろん…

板が立てかけられているところに 通りがかって横目で見ていると いい板だよ と呼び止められて いい板なら とその気になった でも板なんか買って どうするんだろう 黒い油が浮いた板なんか 壁にもできない 橋にもできない 舟を作って川も渡れない 川向こうに…

4月第5週〜5月第1週

にて―天沢退二郎詩集 (1984年)" title="にて―天沢退二郎詩集 (1984年)">にて―天沢退二郎詩集 (1984年)作者: 天沢退二郎出版社/メーカー: 思潮社発売日: 1984/08メディア: ?この商品を含むブログ (1件) を見る再読。死の雰囲気が濃厚な詩集。登場する食べ物や…