謎めいた
バーテンダーの九鬼さんの作るカクテルを飲んであの世とも異界ともつかない酔郷に遊ぶ連作短編集。幻想と官能、それにユーモアとペダントリーを取り混ぜて、なおかつ物語の裏を明かしすぎない絶妙の感覚。作中にもあるが、酔いはしても決して酔いどれることのない口当たりのいい美酒のような作品だった。いやーこの人の作品は初めてだけどこんなにいいとは。すっかりファンになってしまった。
『よもつひらさか往還』の続編。前作とおおよそ趣向は同じで、今回は真希さんというこれまた妖しい麗人が加わった。女版九鬼さんと言うと言い過ぎになるかもしれないが九鬼さんの眷属には違いないわけで、入江さんの一族は慧君にいたるまでこうやって魔性に取り込まれていったのかと考えると面白い。もっとこの世界の話を読んでみたかったけど絶筆とのこと。つくづく惜しい。
フィールドワークを通して地域を見つめ直し、そこで発見したものを元に活性化をはかる。言いかえれば自己を見つめ直し個性を主張するというようなことかな。「ここには何もないと言わないこと」という言葉が印象に残りました。
「閉鎖的な古代共同体から解き放たれた都市の民衆が、『個』としての愛欲を発見」して男女の不平等とともに家父長制=現代に通じる「家」の成立へと移っていく
平安時代の諸相を辿る。女性や性愛を排斥することで男性が特権的な位置を得る(ストレートに「男色」もあり)という図式が鮮やかに示されていて興味深い。ただ終章は諸々の議論の文脈に置かれるべきものであって、それまでの概観から外れた浮きっぷりにはいささか閉口した。
文庫にて再読。スカイエマさんの挿絵はもっと見てみたかったな。