2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

追想

追想 瞳を 置き去りにした 夢見ながら 止まった時を遡り 写真の中で あらわな通せんぼうをしている 視界は遮られ 鼓動は 手遊びのように 雑草のように 刈り取られると ぶら下がった足を揺らし 木陰を作ったかと思えば 緑が覆う 水面に明るく 漂う花を 上手に…

『青白い炎』第一篇(その5)

さらに、そこには音の壁がある。秋になり 無数のコオロギに築きあげられた夜の壁が。 立ち止まらずにはいられない! 丘の中腹で わたしは足を止め、虫たちの熱狂にうっとりと耳を傾けた。 あれはサットン博士の家の灯り。あれは大熊座だ。 千年前、五分間は …

8月第4週

狂言―落魄した神々の変貌 (平凡社ライブラリー (226))posted with amazlet at 12.08.26戸井田 道三 平凡社 売り上げランキング: 823883Amazon.co.jp で詳細を見る神事が芸能へ、あるいは神々が落魄して芸能の場に現れるというような民俗学の論理にはさして興…

『青白い炎』第一篇(その4)

わたしは親愛なる叔母のモードに育てられた。 風変わりな叔母は詩人であるとともに画家であり グロテスクな成長と滅びのイメージが絡み合った 写実的な事物を好んでいた。 隣室の赤子の泣き声を聞きながら彼女が暮らした部屋は そのまま手を加えずにおかれた…

8月第3週

現代日本文学大系〈77〉太宰治・坂口安吾集 (1969年)posted with amazlet at 12.08.18筑摩書房 売り上げランキング: 1241368Amazon.co.jp で詳細を見る安吾だけ。戦後の状況と合わせて読むなら「白痴」「堕落論」が重要と思うが、どうも自分はこの人と反りが…

夏型

夏型 蝶が 土にたかり 互いの喉に触れ 青い夢を見せる 幾度もの成熟 生まれ変わりを 軌跡を描き 焦がされている 羽が また地面に落ち 辿りつけない木陰に 終わらない あなたが死んで 永遠が 死んで永遠が 生きながら この喉を 青い夢を見せる 終わらない 羽…

8月第2週

デルスウ・ウザーラ―沿海州探検行 (東洋文庫 (55))posted with amazlet at 12.08.11アルセーニエフ 平凡社 売り上げランキング: 54942Amazon.co.jp で詳細を見る1907年、北海道とは海を隔てた極東ロシアの一地帯を、著者アルセーニエフは少数の人員をともな…

今週の「青白い炎」はお休みします。

『青白い炎』第一篇(その3)

家自体はさほど変わっていない。翼棟をひとつ 改築しただけだ。その翼棟にはサンルームがあり 見晴らし窓のそばには、意匠を凝らした椅子が備え付けてある。 身動きの取れぬ風見鶏に代わり、今は 大きなペーパークリップ状のテレビアンテナが光っていて 無邪…

8月第1週

敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人posted with amazlet at 12.08.04ジョン ダワー 岩波書店 売り上げランキング: 96923Amazon.co.jp で詳細を見る下巻は主に政治の話。天皇の戦争責任の回避、憲法制定の内幕、検閲、東京裁判や「一億総懺悔」…