8月第2週
デルスウ・ウザーラ―沿海州探検行 (東洋文庫 (55))
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終盤、デルスウは預けられていたインク瓶をなくしてしまう。それについて、人の口から出て空中に広がって消える言葉はともかく、紙にのって百年以上も生きる瓶詰めの言葉(インクのこと)は扱いかねると弁明している。そんな文字以前のアニミスティックな世界を、著者が書き留めなければ永遠に失われていたであろうデルスウの姿を通して垣間見ることの不思議に思いを馳せた。
脇狂言・大名狂言・小名狂言・聟狂言を収める。狂言台本というものを初めて読んだがとても読みやすく面白かった。それぞれの話の面白さもさることながら、シテとアドのテンポのよいやりとりがおかしくて、導入部など形式化している部分も「つかみ」に思えてくる。動きの凝った「棒縛」や「居杭」はぜひ舞台で見てみたい。
特に印象に残ったのは「米市」。年越しの米俵を担いで小袖を羽織った男は、高貴な姫を背負っていると間違えられて若者たちにちょっかいを出されるが、揉み合いの末、ただの米俵と見破られてしまう。興冷めして去っていく若者を尻目に、男は米俵を誇らしげに抱え持つ。……周囲からは取るに足りないものと思われても、それを大切に思う人間にしてみれば高貴な姫に等しい。ささやかな幸福と哀感が切々と伝わってくる。ほろりとした。