2009-01-01から1年間の記事一覧

雲雀料理届きましたので!

2009年雑感

今年読んだ中で特に印象に残っている4冊。アウステルリッツ作者: W・G・ゼーバルト,鈴木仁子出版社/メーカー: 白水社発売日: 2003/07/25メディア: 単行本購入: 7人 クリック: 81回この商品を含むブログ (54件) を見る蠅の王 (新潮文庫)作者: ウィリアム・ゴ…

読書記録

11月の読書メーター読んだ本の数:26冊読んだページ数:5808ページ創作力トレーニング (岩波ジュニア新書)文体研究についてはもう少し真剣に考えていこうと思います。読了日:11月30日 著者:原 和久饗宴―恋について (角川文庫―名著コレクション)『饗宴』『…

河骨*1

井戸の底で まだ生きている 長いこと閉じこめられていて 名前もわからないけれど 冷えきった水の底で 蛞蝓のように生きている ときおり蠢かす腕が 水のおもてに波を立て 波音がうつろに響く 戸を一枚隔てた地上では 男や女が踊っており その声が いびつな誘…

悪い意味で慣れが出てきたような。

茅の先

茅の先から男が来る まるで漂うように歩いてきて 魂がないのかとも思う と目の前で立ち止まり おまえか と問うので そうだ と答えると 光るほど尖った釘を 喉に突き刺してくる あまりの痛さに涙が出る しかし喉を一突きされたので 悲鳴のひとつも上げられず …

ヴォカリーズ、他

星と雨の音楽

「星と星との間に視線でいくら分け入ってもまだまだ小さな暗い星がある」*1とメモ帳に書き付けて、それまで読んでいた本を閉じた。小石が飛び跳ねているような鈍いうずきを眉間の奥に感じる。 朝から家の裏でやっていた工事の音はやみ、思いがけずまたいつも…

カーブミラーの魔物

こつこつと誰かが指で叩くような音に窓を見ると、それはたしかに親指ほどの大きさの蛾が、部屋の明かりに誘われて何度も何度も見えない壁に体をぶつけていた。ガラスにぶつかるごとにこまかな燐粉が散る。これは昆虫の「走光性」という習性に基づくもので、…

漂流

濡れた渦の中で きみは肉を剥がされながら ときどき白い骨を見せたり おこりみたいに頭を揺らした 真青な氷が流れ着くと それをまるで飴であるかのように 右の頬から左の頬へと 移しかえたりした 今そこにきれいな墓がある 誰も行かない 花も咲かない

中国の白い骨

まだ五月だというのに存外に気温が高く、前日の雨による湿気でことさら暑く感じられた。窓を開けるだけでは十分ではないので扇風機を回して部屋にこもる暑気を逃がし、その風を受けながら両側に積み重ねた本の間でうんうんと唸る姿は、おそらく誰が見ても暑…

神社から港まで

からんからん、と鈴を揺らして手を合わせ、しばし拝礼。うしろを振り返るとがらんとひと気のない境内のむこうに低く海があり、天気が良いので水面が輝いて見える。石段を降りて右手に境内社を見つつ、石畳を辿って大鳥居をくぐる。 神社を出て雑貨屋、鮮魚店…

魚の行商

いつものように薄暗い部屋で本に顔を埋めていると、窓の外をパープープーとあの喇叭の音が遠くから近くへ、そしてまた遠くへと沖へ波が引くごとくに通り過ぎていった。近頃このあたりに商いの足を伸ばしてきた豆腐売りであるらしい。らしい、というのはそれ…

ほんとの話。

はじめに 三

嘘を取り混ぜて日記を書いていくというのは決まった。だが当然、嘘しか書かないとなれば別のつらさが出てくるので、そこはバランスを取って書いていきたい。このバランス感覚を習得するまでは妙なことを書くかもしれず、文章の拙劣さや論理の不分明とともに…

はじめに 二

goo国語辞典の「日記」の記述。 (1)日々の出来事や感想などを一日ごとに日付を添えて、当日またはそれに近い時点で記した記録。古くは「御堂関白記」「玉葉」「明月記」などが著名だが、職掌上交替で書き継がれた「御湯殿上日記」などもある。日誌。にき。 →…

はじめに 一

さて何かを書き始める前に、まずは「何を書くのか」という問いを立て、それには自分の立ち位置を確認することによって答えたいと思う。 そもそもこのダイアリーを始めた理由は何だったか? 身も蓋もない言い方をすれば「文章力の向上を期して」である。日記…

よしなしごとをぼちぼち書いていければ。

堀江敏幸『未見坂』

未見坂作者: 堀江敏幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (60件) を見る 普段生活する中で、あって当然だと思っていたものがある日なくなってしまい、その大切さに気づかされることがある…

セブン

セブン [DVD]出版社/メーカー: ギャガ・コミュニケーションズ発売日: 2007/11/02メディア: DVD購入: 3人 クリック: 76回この商品を含むブログ (99件) を見る 1995年の作品ということで僕が最初に見たのも小学校から中学校に上がる頃だったと思う。今回ひさし…

なんか普通のことしか書いてない。

「それで」 石の上で十年も過ごしたような苦悩を顔に浮かべて涼子は言った。 「わたしがいないあいだに一体何があったか聞かせてもらいましょうか」 その向かいにはガラステーブルを挟んで青ジャージ姿の柚香が膝を抱えて座っており、すっかり意気消沈してし…

かんかんかん、と小気味良い音をさせて階段を上っていったが、いざ部屋のドアを前にすると、なかなか開ける勇気が出なかった。なにせ本来なら三日で終わる予定のフィールドワークが、あれやこれやとこだわり続ける教授のおかげで一週間に延びてしまったのだ…

「だからさ、近づきすぎると何事もだめなのよ」と言って、彼女は運ばれてきた皿を受け取った。行儀よく八つ並んだ餃子からは香ばしい湯気が立つ。 「……ハリネズミのジレンマですか?」 「いやいや、そんな大げさなもんじゃなくて」 恋する二匹のハリネズミが…

高台の公園からは街の全景が見渡せた。十年ほど前に着手された区画整理のために街は妙に丸く、整った形の中をくねくねと電車が走っている。街の右から左に抜けていく電車を、僕は大きなムカデが果実を食い進んでいるように感じていた。 姉はその電車に乗って…