神社から港まで

 からんからん、と鈴を揺らして手を合わせ、しばし拝礼。うしろを振り返るとがらんとひと気のない境内のむこうに低く海があり、天気が良いので水面が輝いて見える。石段を降りて右手に境内社を見つつ、石畳を辿って大鳥居をくぐる。
 神社を出て雑貨屋、鮮魚店、銀行の前を通り、母校でもある中学校の敷地を貫く道へ折れる。教職員用の駐車スペースのすぐ隣には山茶花の古木、正面玄関脇にはロープを張ったひょうたん池に鯉が悠々と泳いでいる。
 その先には観光用に近年整備された道が続く。かつては藩の城があり、今はそこに小学校が建っている。城址公園や遊歩道が整えられ、もうすぐ観光案内所なども完成するらしい。桜と松の並木道。そして図書館がある。地元出身の偉人の名を冠したこの図書館は城址と同じ高台に位置し、堀に突き出す形で、裏手に海を臨む。
 腰の高さのカウンターに本を返却し、内容物が消えてぺしゃんこに潰れたショルダーバッグを館内のテーブルに預ける。胸ポケットからメモ帳を取り出すと、そこにあらかじめ書いておいた書名を、書架から抜き出していく。平日の昼間なので館内はひっそりと静まり返り、海のほうに面した窓から涼しい風が吹きこんでくる。迷いながら数冊を選ぶ。さらに目についた書名や著者名をメモ帳に書き出す。ここでチェックしたものを帰宅後にネットで調べ、図書館のデータベースを参照しながら次回以降に読む本を決める。
 ある程度気が済むまで館内をうろついたら貸し出しの手続きを済ませ、図書館を出て並木道を戻る。しかし今度は中学校を通らず海のほうへと坂を下る。坂の終盤は石段になっており、下り切った先には防波堤を挟んで海が広がっている。左右に湾を抱きこむ形にカーブした遊歩道。左に折れて車止めの先に進む。主にジョギングや犬の散歩に利用されているがこの時間は大抵誰もいない。
 海を眺めながら歩く。防波堤の下で大きな鳥が岩の間をつついている。強い風が吹き、その片側の羽がわずかに膨らむ。本の重さを肩に感じながら港まで行く。