河骨*1

井戸の底で
まだ生きている
長いこと閉じこめられていて
名前もわからないけれど
冷えきった水の底で
蛞蝓のように生きている
ときおり蠢かす腕が
水のおもてに波を立て
波音がうつろに響く
戸を一枚隔てた地上では
男や女が踊っており
その声が
いびつな誘いとなって聞こえる
どうせなら
こんな冷たい水ではなく
暖かい土地を流れる
河に身を浸し
死んでいきたい
流れ着いた先で
馬に蹴られ
鬼に砕かれて
無数の欠片になれば
見知らぬ誰かに会えるだろう
その人が踊り果てたら
井戸水を汲んで
飲むかもしれない
そうしてようやくわかる
月は白いだろうか
骨のように
白い光だろうか