「五月闇」抄

ここで崖が崩れたことがあった
大勢が土の下に埋もれてしまい
まとめて葬式を出すことに決まった
それにはとむらいの家の数にだけ
茶碗をかけらに砕き
使者に持たせて知らせとする
各家がかけらを持ち寄れば
全き一個の茶碗ができあがる
そうやって儀礼の場をもうけるのだ
だがいざ式の段になると
かけらが揃わない
いかようにしても一片が足りない
その場に集った誰を質しても
席を断った家は判然とせず
顔を見合わせるばかりである
欠けた茶碗を前に
しかしみな胸中では納得している
こうなるしかなかったのだ と
しめやかに飯を盛った