竹林

ちょっと一曲流していってくれと
手を引かれた先にはいかにも豪農風の屋敷があり
その内庭といおうか畑地といおうか
平らにならした広場にはすでに人が立ち集まっていた
聞けば数十年に一度の祭りの前祝いということで
今日ははなればなれの親族が集結し
当地の名物に舌つづみを打とうではないか
といった趣向らしかった
 
暗く寒々とした広場には各所に一斗缶が置かれ
覗きこむとまっ赤な炭があかあかと燃えている
そこに次々と肉や野菜が運ばれてきて
それらを炭火焼きにして食すのだが
これが他では見られない風俗でたいへん面白い
特筆すべきは肉を焼く工夫である
青ぐろいペンキに漬けこんだペンキ肉を
竹箸の先にひときれ引っかけて
燃えさかる炎の中をひらひらと
旗を振るかのごとくに舞い踊らせる
すると炎は様々に色を変え
肉はしゅうしゅうと煙をあげて
なるほどうまそうに焼けるのだ
ひとつどうぞと勧められて相伴にあずかったが
塩味にかすかに土の香りが乗り
滋味豊かでなかなかの味わいだった
 
さて宴は深更におよび
丑三つにも達しようとした頃
そろそろお開きに
という主人の合図をきっかけに片付けがはじまった
今宵はいい夜になりました
これは少ないですが と謝礼も十分いただき
なんの文句のあろうはずがない
倦怠につつまれて辞去してみれば
灯の消えた広場には
歯を青々とペンキまみれにした人びとが
暗闇にまるで竹林を風が抜けるように
さらさらさらさらと揺れ動いていた