1月第1週

森のはずれで

森のはずれで

過剰にリリカルな言葉の裏にとんでもない不穏さが見え隠れする。それは老婆や小鬼の姿を持っているのだけど、かつては難民や虐待された犬などであり、そういった歴史・記憶を貪ってきた森でもある。それらは秩序正しく現れるのではなくたゆたうように提示されて、ちょっと他で経験できない(というよりも作中にあるように「胎内」的な、もしくは誕生の際の?)恐怖を感じさせる。小ぎれいな表紙や帯を見て軽々しく判断してはいけない、真の意味で幻想的な作品だと思う。

世界に一人ぽんと投げ出されてしまったような、幼少時に感じた不安の発作のような怖さがあります。

知っている人を背後から見て、こんなふうだったのかと意外に思うことや、うしろ姿から自分の知る人だと思って、追いすがり、顔を見ると、全然知らない人で驚くとき、その「ずれ」の感覚を通じて僕たちが経験しているのはたぶん、個々の同一性というものの不確かさ、不安定さなのだろう。

 

評論集。笠井潔論を装ったクイーン論が素晴らしくて痺れた。笠井潔とクイーンの作品を比較検討し、大量死と密室を絡めて大戦間探偵小説を論じる。クイーン『九尾の猫』のお供にぜひ。