7月第4週

老人のための残酷童話 (講談社文庫)
倉橋 由美子
講談社
売り上げランキング: 329654
老いを中心にそこから生まれる欲や諦念などを描く短編集。童話というだけあってですます調ではあるが、内容はいつもと同じくシニカルさを感じさせる。中国の古典から膨らませた話が多く、中には志怪そのものの不条理な味わいの話もあり、かと思えば幻想譚やSFに近い話もある。ただし地獄と地上が地続きになっているような数話はちょっと俗すぎるかな。渦巻き状の図書館に現れる老人の幻想譚「ある老人の図書館」、地上の川を辿り天の川に至る「天の川」がお気に入り。
 
自家製 文章読本 (新潮文庫)
井上 ひさし
新潮社
売り上げランキング: 70963
『私家版 日本語文法』はエッセー然としていたが、この本では砕けた調子も薄れ、さすがに文章読本にのぞむ気概のようなものが伝わってくる。なかなか明晰かつ熱血な考え方で、特に文間文法(これは加藤典洋の『言語表現法講義』でも言及されています)と、日本語の動詞の弱さとオノマトペの関係、それと文末決定性のあたりが参考になった。図書館からの借り物なのであらためて購入して精読したい。あとは丸谷才一文章読本も読んでみよう。
 
最後から2番目の毒想
最後から2番目の毒想
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倉橋 由美子
講談社
売り上げランキング: 58834
80年代前半頃のエッセーを集めたもの。作品の印象から一体どんなに貴族的な人かと思っていたら、わりと泥くさくて偏屈な人だった。もちろんそれは悪いことではなく、変な言い方になるが、本を沢山読んでいればこうなるよなぁというシンパシーを感じさせる気難しさで、ご自身が「道楽として好きなものを書こうという悪質なノンプロ」と自称するのも好ましく思える。文学観も同様で、俗塵を離れた場所から発せられる「毒」にはいちいち襟を正される。谷崎潤一郎永井荷風への評価、また和歌や志怪を好むところから、自分も古典に親しみたくなった。
 
私家版 日本語文法 (新潮文庫)
井上 ひさし
新潮社
売り上げランキング: 5932
日本語のあれこれについてユーモアを交えておもしろおかしく論じる。正直に言うと内容はすぐにでも忘れてしまいそうだし、読んでいて一番勉強になったのは雑誌名にカギ括弧「」を使うという丸谷才一の引用だったりしたのだが、文章の細かい部分までしっかり意識する感覚はいくらか研ぎ澄まされたかと思う。いつも流し読みしがちなのでこういう本を定期的に読んで確認したい。にしても井上ひさしという人はユーモアセンスが冴えまくってるな。普通、例文に小林一茶の交合日記なんか引かないって(笑)
 
大人のための残酷童話 (新潮文庫)
倉橋 由美子
新潮社
売り上げランキング: 228253
有名な童話や昔話をアレンジした掌編集。どれも軽妙で皮肉なコントといった風で面白いんだけど、話の最後に付された一行の教訓で台無しになることが多い。これは倉橋さんも懸念していたようで、あとがきにも「編集部の希望であり、話の読み方を拘束するものではない」とある。が、それにしたって酷いよなあ。これを笑ってやり過ごせるのが大人なのか。なぜか終盤にカニバリズム絡みの話が固まっていたのが印象的。「かぐや姫」「飯食はぬ女異聞」では思わず涙腺が緩んだ。
 
虫と日本文化 (日本を知る)
笠井 昌昭
大巧社
売り上げランキング: 187210
軽めのエッセイ。虫に関する俗信が知りたかったがそういう本ではなかった。後朝(きぬぎぬ)の語源とか昭和の玉虫厨子とか虫愛づる姫君とかのトリビアが面白い。虫の声を風流に感じるのは日本人だけというのはよく聞くが本当なんだろうか。