9月第2週

「いと時めき給わぬ(寵愛されない)」女御こと藤原元子の生涯を見る。元子って誰だっけと思ってたら、寺で異常出産した人だというところでやっと思い出した。顕光の娘。しかし元子よりも、鳴かず飛ばずの生涯を送ったその父親のほうが印象に残る。政治的に無能というだけで「悪霊左府」と呼ばれて死後も悪霊扱いされるんだから悲惨だよな。
 
物語工学論
物語工学論
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新城 カズマ
角川学芸出版
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「物語とはキャラクターである……少なくとも、キャラクターという観点から物語の構造と本質をよりよく見通し、その作成に役立てることは十分に可能である」。構造主義などの成果を援用してキャラクター類型から物語について考えていくのだけど、現実へコミットする視点を持っているために硬直化せず、非常に示唆的で「のびしろ」がある。類型同士は密接に関係しているのでひとつの類型から他の類型を読み直すこともでき……つまり最低でも7回は読めるってことです。類型の解説以外にも対談や付録がお得ですね。勉強させてもらいます。
著者のサイトに公開されているカット部分は「ストーリーは必要なのか?」というそもそも論や賀東招二氏の脚本家体験に触れていてこちらも勉強になります。ところでキャラクター類型の相関図(これすごいよくできてると思うんですが)はセフィロトの樹かなにかのパロディなのか。平沢進がこんな装置を叩いてるのを見た気がする。
 
ミラノ 朝のバールで
ミラノ 朝のバールで
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宮本 映子
文藝春秋
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十歳の頃からイタリアに憧れ、ついにイタリア人のもとに嫁いでかの地で二十年を過ごした人によるエッセー。ルーズでエネルギッシュで底抜けに陽気、そしてほのかに哀しみを秘めているというイタリアの人々の姿がまぶしく映る。いろいろと面白いエピソードが満載で、詐欺に遭ったと気付いて店に戻ると店が消えている、なんて少々話ができすぎているけれど、登場する人々の姿を見ていると本当なんだろうなあと思えてくる。まるでイタリア映画のような日常を知るにつけ、映画は日常に忠実だったのだという妙な感慨を持った。
 
雪のなかのアダージョ
粟津 則雄
新潮社
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幼少の頃から身の回りに音楽があったという人によるエッセー。ベートーヴェンを聴いて音楽の持つ危険な力に恐怖した少年は、後年、父を埋葬したあとの雪の風景にモーツァルトアダージョが鳴り響くのを聴く。音楽を聴いて生きるとはそういうことなのか、と素養があるとはとてもいえない人間としては興味深く思いながら、ピアニストや指揮者や作曲家を語る文章を、詩を読むように楽しんだ。
 中国との冊封関係を脱して日本が律令国家となるにあたり、天皇の世界を根拠付け、確証することが必要とされた。本書では天皇の正統性を確証するものとして古事記を読み進めていく。たとえば上巻は人間のはじまりには触れることなく、あくまでも神につながる天皇の世界の成り立ちが書かれているのであって、この点から見れば神話の発展段階などは特に問題にならない。若干の味気なさは感じるがこういう読みもあって然るべきだろう。
黄泉神話において千引の石で行き来が途絶えた黄泉の国、スサノオが移り住んだ根の堅州国、海神の国。これらを死後・地下世界の違ったあらわれと考えるのではなく水平的な別個の国と考え、葦原中国との関係によってのみ、その中心世界を定位するものとする。同様に、古事記日本書紀をまったく別の論理が働く別個の神話ととらえ、しかしどちらも天皇の正統性を根拠付ける点では同じであり、いわば天皇を多元的に定位すると考える。なかなかスリリングな考え方。
 
ルネサンス (岩波ジュニア新書)
沢井 繁男
岩波書店
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ルネサンスを思想と技術を中心に概観する。雑に読んでしまったがルネサンスがペストなどによるキリスト教世界の危機に瀕して花開いた文化だったということはよくわかった。ダンテ・ペトラルカ・ボッカッチョをはじめ、知るべき人や事柄がまだまだ無数にある。一筋縄ではいかないルネサンス文化をこれから徐々に見ていきたい。