11月第1週

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)
イアン マキューアン
早川書房
売り上げランキング: 267806
両親の死、そして死体遺棄。セメントで隠した死体の影響下にある子どもたちは、時が経つにつれて未文化な状態へと還っていく。作品全体がセメントでパッケージされているような感じで、その中では四人の兄弟姉妹が野放図な楽園の日々を送っている。最終的には胎内で睦み合う母と子という禁断のイメージに辿り着くものの、それほど重たい印象はない。コンパクトでかっちりしてる。
 日本紹介者としてのハーンは微妙に思うけど、文化が世に出る初期にはある程度の恣意的な脚色や取捨は仕方ないのかもしれない。ハーン然り、柳田国男然り。ハーンが日本と出会うことなくその趣味や特性を発揮したらどんな作家になっていただろうか。
 
源氏物語と日本人 (講談社プラスアルファ文庫)
河合 隼雄
講談社
売り上げランキング: 199676
源氏物語』を光源氏ではなく紫式部の物語ととらえ直し、心理学的に読んでいくことで現代人の個のあり方を問う。女性像を光源氏との関係において母・妻・娼・娘に分類すると、物語が進行して女性像が深まるとともに、女性は光源氏(異性)を必要としなくなる。ということは個としての存在に根を下ろすということである。人間が生きるには物語が必要であるとの観点から、(光源氏と女性との関係のように)人に与えられた物語を生きるか、それとも自分の物語を生きるか、千年前のものとはいえ現代に資するところは大きい。あらためて偉大さを知った。

この際、その女性像は、竜殺しを行った男性の英雄のように孤立したものではない。それは一人でありながら関係性を内包した存在なのである。それは別に男性との関係によって自分のアイデンティティを決定するのではなく、自分自身の存在自体によってアイデンティティをもっているが、必要なときに、必要な相手と、仲間として生きる関係性をもっている存在なのである。

 

具体的な技術にはさほど触れないが心構えの点で参考になる。人間は常に断片でしか世界をとらえることができないとして、全体や類型より細部を重視し、文章表現においてはメモ(=断片)の重要性が説かれる。世界の細部を見つめてそこから新たに世界を示す、つまり「自分にしか書けないことを、だれにもわかるように書く」。メモ好きには嬉しい文章論。
 
あたりまえのこと (朝日文庫)
倉橋 由美子
朝日新聞社
売り上げランキング: 209838
倉橋流の小説読本。のっけから「正義とは何か、何をもって正邪を判断するのか」という問いを「決断も行動もしない幼児」と退けるのには痺れた。読んでいると文鎮で額をぐりぐりされるような気分になる。買い直して熟読予定。