8月第1週

内田樹春日武彦の対談集。世に存在する定型・非定型、言語化できるものと言語化できないものを中心に、あれこれと雑談する。おおよそは身体・直感的な物事を重視する内田樹に春日先生が相槌を打つ感じで、内田さんのフットワークの軽さはたしかに賢明だけど、こうして文章化すると軽薄な印象を受けるなあと思った。自ら定型に篭って生きるよりも、もっと軽やかに直感や実感で対処したほうがいい、その上で利用できる定型は利用するという話。
 解剖学書『ファブリカ』の著者として名高いヴェサリウス。その生涯と業績を論じる。ルネサンス期、それまでは古代ギリシア医学書を信じるだけだった医学に人体解剖を定着させ、近代以降の観察至上主義を導いた。それまでは「文献の内容と人体の構造が食い違った場合には、文献の方が正しいとされた」のだから、古いパラダイムがいかに強かったか。
 
歴史としての社会主義 (岩波新書)
和田 春樹
岩波書店
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ユートピアを希求するものとしての社会主義思想について。思想の前史から世界戦争の二〇世紀、ペレストロイカを経てのちの展望までまとめられている(初版は92年)。著者がロシア史の研究者ということもあるのだが、やはり二〇世紀においては、ソ連国家社会主義が大きなウェイトを占める。各国への影響も大きい。世界戦争の世紀の思想背景を概観できて有益かと思う。
 
現代史を学ぶ (岩波新書 新赤版 (394))
溪内 謙
岩波書店
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ロシア現代史の研究者による歴史学レッスン。歴史を研究する意義と手法(テーマ・史料・文章化)を、自身の研究を交えながら論じる。これはとてもいい本なのだけど、著者の研究領域の事柄がかなりの部分を占めていて、それが初心者には煩瑣に感じられた。過去は常に現在において現れ、歴史家自身もまた歴史過程の一部分であり、したがって自分と歴史との関わりを相対化する努力が必要とされる。
 
夜と霧 新版
夜と霧 新版
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ヴィクトール・E・フランクル
みすず書房
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過酷な運命に際して人間は何ができるか。

わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ

極限下で生になにも期待できないとき、生の側から他動的に未来をつなげること、なにかが自分を待っていると信じることが必要だったという。この理解に達したとき、目前の運命は苦しみも含めてかけがえのないものに変わる。生きることから降りられなくなる。