フランケンシュタイン・コンプレックス

Q.最近読んで面白かった本を教えて下さい
A.面白い本はいろいろ読んでいるのですが、その中でも特にインパクトを与えられたものとして、小野俊太郎フランケンシュタイン・コンプレックス―人間は、いつ怪物になるのか』を紹介します。フランケンシュタインに始まって、透明人間やジキル博士やドラキュラ、はてはスピルバーグまで、いわゆる「怪物」を扱った作品を読み解き、怪物とは何か、怪物を生み出す社会とは何かを論じる文芸批評です。

怪物とは何でしょうか。怪物と人間は何が違うのでしょうか。怪物とは何かを問うたとき、実はそれは人間を定義することにつながります。人間を定義し、その定義をおびやかす存在を怪物と位置づける。逆も然りで、怪物がわかれば人間がわかるということになります。人間と怪物との間に一本の境界線を画定する。そしてその境界線は時代によって異なっています。たとえば地域社会でリアリティをもって恐れられていた妖怪も、現代の目から見れば民俗学的な事象として、恐れるに足らない研究材料と考えられているのです。

本書は怪物の系譜をたどることで、怪物を創り出した社会を読み解いていきます。人間が創りだしたものが人間をおびやかす怪物になる……怪物を科学技術や思想と考えれば範囲はさらに大きく広がり、今日的な問題を読み解く上でも有効かと思います。

ちなみに、本書で使われる「ブラックボックス」という概念。これは時代を下るごとにわかりにくくなる社会システムのことなのですが、ブラックボックスの内実に目を向けるという本書の態度が、その後の読書傾向にかなり影響しています。それまではいくらか自閉的だった視線がもう少し外に向くようになりました。