解剖

 ある特殊な能力を得た人間、ということで、古びた木造の病院に運びこまれる。病院とはいってもごく普通の一軒家で、医師の数は少なく、何科なのかさえ判明しない。その病院の個室…普通の寝室のような…の寝台に縛りつけられ、ただぼんやりと手術が開始されるのを待っている。周囲には大人の背丈ほどの長方形のケースがいくつか置かれている。
 しばらくすると数名の医師が現れる。と、おもむろに寝台に縛りつけた体にメスを入れ、腹、手、足、と順番に、精確にさばいていく。あまりに手際が良いので痛みを感じない。ただ紙を切るように切り離される体が、内臓のない体が寂しい。
 最終的に全身が細かく切り刻まれ、ほとんど原型を留めていない。その肉の様々な部位を仕分けて箱に収めていく。痛みはなくとも血はあたりを真っ赤に染めている。きれいに仕分けられた肉は箱に収まってもじくじくと血を流し続けている。
 そのときになって急に怒りがこみ上げてきた。自分はこんな風に解剖される謂れはない、あの医師たちはなぜこうも徹底的に切り刻むのか。そう思うと急に力がみなぎってきたような気がする。ためしに腕を動かそうとすれば、細かな肉片になった腕が徐々に再生していく。同じ要領で体に力を入れると全身がひとつに繋がっていく。そして元通りの一人の人間に戻る。
 医師たちは慌てている。怒りに任せてその一人の腕をつかむ。つかんだ部分から血が噴き出して止まらない。あっという間に全身の血を流しきって死んでしまう。二人、三人と、他の医師も同じようにして死んでしまう。全員を殺し終わったところで、逃げなければ、と思い、部屋を出た。