探幽記

昼の熱が首に残り
薄もや漂う台所に下りていく
流しに秋刀魚が落ちていて
しくしく泣いているので
そんなに泣いても だめだよ
焼くよ、と断り
包丁の先導で
地獄を歩かせると
頭から尾までまったくの
美しい焼き魚になる


それを仏間に運ぶ
待っていると
誰かが
そっと襖を開け閉めする
あなたはわたしの
ご先祖さまですか
供えた花が枯れている
名前も明かさぬままに
秋刀魚の腹を
箸で探りはじめる