夜猟

 夜毎、猟に出かける。
 温かな寝床から抜け出て、坂を上り、町とは反対方向の道を歩いていく。道の脇には一定の間隔をあけて遺構のような井戸があり、そのどれもがとうの昔に干乾びてからからだ。ごうつくばりな先人が霊水をすべて飲みつくしてしまったらしい。
 道は古びた神社に続いている。途中から石段に変わった道は鳥居をくぐり、そこだけ写真のように鮮明な社殿へと続く。と、いつのまにか左腕で青さびた猟銃を抱え持っている。腰の両側には弾のいっぱいに詰まった箱がへばりついている。
 社殿裏の叢林、この先が勝負だ──もちろん猟の。鹿や鳥を狙うときもあれば不定形の黒い何かを相手にするときもある。ぎらぎらと鋭い牙と爪を持つ執念深い魔物で、二度出くわして二度とも敗北を余儀なくされた。今日こそはやつの脳髄を吹き飛ばしてやりたい。
 息をひそめて待つ。ひたすらに待つ。苔に覆われて青く輝くまでになった木の蔭で、自分も苔と同化してしまったかのように獲物を待つ。ときおり、土がついたままの茸を噛み砕いて冷たい露を舐める。
 突如やつが現れる。しかも運の悪いことに背後から。これではさすがにどうしようもなかった。銃を構える暇もあらばこそ、遠慮なしに牙が首を襲う。喉の奥からあふれ出た血が、鋭い牙に糸巻きのように絡めとられる。それから巨大な前足が圧倒的な力で背中にかかり、地面に押し倒されて肋骨のあいだに四本の爪が荒々しく挿しこまれるのがわかる。もう遅い。暗転。
 一匹の獲物もないばかりかまたもや悲惨な敗北を喫してしまった。
 帰り道、石段を降りて神社の方を振り返る。今頃俺の体は魔物に貪り食われて肉も骨もわからなくなっているだろう。そう考えると敗北感や恥辱が一挙に押し寄せてくる。いつかやつを仕留めることができるのか。それまで何度こうやって死ぬことになるのか。
 道の脇の井戸から噴水のごとく水が湧いている。その様は笑っているようにも励ましているようにも見える。いや、やはり失敗をあざ笑っているのだ。それがしきたりだ。
 寝床に額を押しつけ、今夜の失敗を、死の苦しみを、すべて忘れ去ろうと努めた。