1月第5週

婚礼、葬礼、その他

婚礼、葬礼、その他

『婚礼、葬礼、その他』は、婚礼と葬礼の場が重なることでカオスな面白みが生まれ、いろいろしがらみはあっても順番に送ったり送られたりするし、そうこうしててもとにかくお互い生きてると腹は減るよな、としんみりした感動があった。どちらにも共通する「礼」を辞書で引くと「社会生活をする上で、円滑な人間関係や秩序を維持するために必要な倫理的規範」とある。
かたや『冷たい十字路』は、ある交差点での事故を中心に、それに間接的に関わる人々の姿が描かれる。どの人も自分の事情に追われて努めて無関心を装っているのだけど、無関心さが巡り巡って各自にマイナスに作用するわけで、その負のスパイラルが重なったために起きた事故でもある。負の連鎖を止めるヒントのように散りばめられた善意が救いといえば救い。結果として、対照的でありながらも根底に「礼」を据えた二作が並ぶことで、奥行と統一感のある一冊になった。
 
ライオンと魔女(ナルニア国ものがたり(1))

ライオンと魔女(ナルニア国ものがたり(1))

ひさしぶりに再読。そういえばこれも瀬田貞二の訳だった。アスラン登場で物語が急速にしぼんでいくのを感じて、ああ大人になってしまったんだなぁと若干悲しい気分に。それでも衣装だんすのむこうの世界や雪の森の街灯はシュールで良い。
 
小説の言葉 (平凡社ライブラリー)

小説の言葉 (平凡社ライブラリー)

小説という表現形式は様々な言語(言語的多様性/文体)が対話(管弦楽化/オーケストレーション)して響き合うものである。第四章まではその理論的骨子が述べられ、第五章以降はヨーロッパ文学史においてそれがどのように形成されていったかを概観する。……正直理解できたとは言いにくいけど大雑把にはつかめたと思うし、今までの読書体験を顧みても得心が行く。ただ、後半は流し読み。
 
ハーディ短篇集 (岩波文庫)

ハーディ短篇集 (岩波文庫)

8編を収録。どれも面白かった。中でも「伝承的バラッドの響ただよう」として紹介されている『帰らぬ人』の終わり方が好き。この人の作品は偶然によって話が進んでいくことが多くて、それがある種の運命的・伝承的な流れを作り出している。また、谷崎潤一郎が惚れこんだという『グリーブ家のバーバラ』はいかにも谷崎が好みそうな話でにやにやした。訳も良いです。
 
マイクロバス

マイクロバス

とある海辺の集落を舞台にした中編が二つ。ううん、これはちょっとお手上げ。自分にはこの人の使うマジックリアリズムや時間の混交が合ってないのかも。幻想のその裏に透け見えるものが怖くて仕方がない。『森のはずれで』は怖さがいい方向に転んでたんだけどな。