3月第3週

トンボソのおひめさま―フランス系カナダ人のたのしいお話 (岩波おはなしの本 (2))

トンボソのおひめさま―フランス系カナダ人のたのしいお話 (岩波おはなしの本 (2))

やはりこれも昔話のパターンを多く踏襲しているものの、フランス系だからなのかカナダ人だからなのか、全体的にとても洒落ています。挿絵までお洒落。一話完結だと思って読んでいたら「フケアタマ」「金ぱつの騎士」がまさかの続きもので、特に後者は出色の出来で堪能しました。

王様がなくした槍の穂先を見つけてきた者には王女を花嫁に、という場面の一節。

まぐわやナイフのさきをおって、それをもって、やってくるしゃれものたち、ペンさきをおって、それをもちこむ学者たち、じぶんのほさきをかいてもってくる、りっぱなさむらいたち。

 

あおい目のこねこ (世界傑作童話シリーズ)

あおい目のこねこ (世界傑作童話シリーズ)

ねずみの国を探す元気なあおい目のこねこのお話。少ない色数のラフな絵柄とこねこの性格が相まってどこまでもポジティブです。それは本の作りにも如実に表れていて、山をただ上り下りするだけのシーンに12ページも使われています。そういったある種の自由さ・潔さが、物語の土台で個性を謳い上げているのではないでしょうか。それにしても、黄色い目の猫はみんな悪そうな顔してますね。
 
ヒメの民俗学 (ちくま学芸文庫)

ヒメの民俗学 (ちくま学芸文庫)

女性民俗の諸相を訪ね歩くとは言うけどただ事例を並べるばかりで、これでは徒然エッセイの域を出ないのでは。まあ実際にエッセイとして書かれたもののようですが。なぜ女性が力を持つに至ったのかとか、境界において発露する女性の力とかは、掘り下げていけば異人としての女性という大きなテーマに繋がっていきそうではあるし、それでこそ女性民俗を呼びこむ学究的な態度だと思うんだけど、いかんせん散漫で具体的なところが見えづらい。タイトルに学と銘打つならもっと突っこんだ考察が欲しかったですよ。
 
のんきなりゅう

のんきなりゅう

ある村に心の優しい竜が住み着きました。竜と仲良くなった男の子は、竜と竜退治の騎士との仲をとりもつことになるのですが……。あまり押し付けがましくないのがいいですね。こういった作品を読むことによって、排除されるものへの思いやりの心が養われていくのでしょう。余韻を残す終わり方が好きです。

男の子は、博物学の本と、おとぎ話の本がすきで、かわりばんこによみました。それこそ、正しい本のよみかたかもしれませんね。

あ、やっぱり。
 

文化と両義性 (岩波現代文庫)

文化と両義性 (岩波現代文庫)

記号論現象学を軸にして見る中心・周縁理論。大意としては「中心はその全体性の不可欠の部分として周縁を(排除しながらも)維持する」ということで、たとえば神話の中の悪、異人、権力構造、夢、日常言語に対する詩的言語など、このモデルを頭に入れておくと文化の様々な面において理解が容易になってきます。個人的には、中心と混沌との間の緩衝地帯を担う周縁、つまり周縁は「境界」であるという認識が得られたのが大きかったです(なぜかその認識が抜けていて自分でもびっくりしたのですが)。
 
ゾーヴァの箱舟

ゾーヴァの箱舟

図書館で見つけてそういえばよく見る名前だなぁと思って借りてみました。マグリットアンリ・ルソーを思わせる抑制の効いた空間に慎みをかけらも持ち合わせていない動物たちが闖入して独特のユーモアと批評性を獲得しているんだかいないんだかそういうのはどうでもよくて(笑)。なんかこう全力でふざけられているようなゆるい脱力感があります。実際はかなり大きい絵みたいなので展示会で見てみたかったな。
 
エミリー・ザ・ストレンジ

エミリー・ザ・ストレンジ

黒猫を従えたストレンジなエミリーのストレンジな絵本。無表情がかわいい。ラストのほうで背景が変わってもエミリーだけ同じポーズで真ん中にどーんといるのは、エミリーの性格とデザインがうまくマッチしてて良かったです。ただ、日本語が載るとシャープな印象が薄れてほっこりしてくるので、これは原文で読んだほうがいいと思います。裏表紙の「ご用心」とかほんと微妙。
 
ウエスト・ウイング

ウエスト・ウイング

開け放たれた扉、薄暗い廊下、脱ぎ捨てられた靴、あやしげな壁紙……説明のないままに並べられたウエスト・ウイング(西棟)の風景。独特のタッチのため、見ようによっては壁や床に何かの像が浮かび上がってきそうで、想像をかきたてる不気味なモチーフとともに、そこにはたしかに「何かがある」気配が満ちています。時おりここを訪ねたいですね。
 
たのしい川べ―ヒキガエルの冒険

たのしい川べ―ヒキガエルの冒険

春の陽気にさまよい出たモグラは、川辺で出会った川ネズミと一緒に暮らすことになります。そこに高慢なヒキガエルや頼りになるアナグマが加わって……。副題に「ヒキガエルの冒険」とありますがドタバタした冒険だけが主眼ではなく、動物たちがあたたかい家や自然に囲まれて気楽に日々を送る様からは、なにか人をリフレッシュさせる気分が感じられます。また、子どもに語り聞かせるなかで生まれた作品とのことで、イギリスの子どもはこういった饒舌のユーモアの洗礼を早いうちから受けるのだなぁと考えると、国民性が見えてちょっと面白いです。