6月第3週

「学校の怪談」はささやく
一柳 廣孝
青弓社
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ブーム期の出版・映像の変遷から、現場の分析、口承文芸・民話研究の流れまで広くカバーした論考集。わかりやすいまとめとしては「個性尊重教育」と「制度に対する馴致」の矛盾の中で醸成されたものが「学校の怪談」であるとするが、そこは一筋縄ではいかず複雑。個人的には、学校という特殊な場にある小メディアとサブカルチャー民俗学をも含んだ大メディアとの関わりを考えさせられた。ネットが普及した今ではコミュニケーションのあり方はどうなるだろうか。
 
続・天沢退二郎詩集 (現代詩文庫)
天沢 退二郎
思潮社
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続でようやくらしくなってきた。集中の白眉は「Les Invisibles 目に見えぬものたち」。全51篇の中に「花見川流異記」という詩群を書中の川のように含む詩集は、天沢作品における水のイメージと彼方への衝動の重なりを見事に示している。これは詩だけではなく童話にまで溢れ出る「水」を読み解く上で重要だろう。「雨は降り注ぎ川は流れる。作品は降り注ぎ物語は流れる。」と端的に表す解説も嬉しい。
 予言をすると相手から忘れられてしまうクダンの少女を巡る三つの物語。同作者の『神様のおきにいり』もそうですが、妖怪を語ることと人の心を語ることが結びついていて好ましいです。ネットと現実の間で揺らぐ孤独な心に立ち現れる妖怪たちの姿を見て、時代は変わってもそれが人の心に生きるものであるかぎり生き続けていくんだろうな、と作品とは少しずれたところで感慨深く思ったり。
 2巻では舞台を北海道の観光都市に移してクダンと人々の姿が描かれます。物語は子どもたちの間に伝わる不思議な遊びを軸に、それぞれの人物が心の底に抱えていたものと折り合いをつけながら、最終的には「大人になる」というテーマが浮き上がってきます。クダンとの関わりを通して己に向き合えたケース、そして己から逃げたケースを経、最後は真正面からぶつかっていくのが小気味良く、その真っ直ぐさには感動しました。ただ、作者によれば続刊は難しいとのことで、保留になったままのクダン自身の心の行く末を見られないのは惜しいです。