8月第4週
怪談コレクションの中では少しインパクトに欠けるがそれでも十分面白い。不思議な因縁の末に引き起こされた怪異が主で、その説明のつかなさと近代の合理的精神が相克している。また、旅情を誘う話が散見されてこれは個人的に嬉しかった。夢のイメージが不気味な「鰻に呪われた男」、奇怪な嫁入り衣装の伝説「経帷子の秘密」、それと猿婿入を想起させる「くろん坊」がお気に入り。この人は随筆も面白そう。
ざっと古事記のストーリーを紹介。史跡案内や解説などはわりとおざなりなのでそのつもりで。こうして見ると神武東征以降も面白いものだなあ。
CLASSIC HOTEL (GREAT HOTELS OF THE WORLD)
posted with amazlet at 10.08.22
内容を覚えていなかったので再読。なぜ覚えていないのかというと情報の列挙の感が強いからだった。ケルトの思想が根底にあるということだけ念頭に置いてそれぞれの作品や伝説にあたったほうがよさげ。
キリスト教合理主義に対してキリスト教以前のケルトやナバホの非合理主義を取り上げ、グローバリゼーションの大きな流れの中でどう生きるべきかを考える。結論は「バランスが大事」ということで、合理主義一辺倒を批判しつつ、ウィッチやドルイドなどの「無意識」に関わるものの必要性を説いている。現代のドルイドの「儀式をクリエイトする」という考え、そして芸術の儀式的意義については瞠目した。不思議なことはあるとして、しかしそれを普遍化すればオカルトに陥るという点は見逃せない。「それがすべてだ」ではなく「それもある。これもある」
「あんたはこれからあの怖い怖い飛行機に乗るんだぴょん」。飛行機嫌いのおもしろおかしい旅行記だと思っていたら、思いのほか創作の現場にまで踏み込んでいて徳した気分。キーワードは「想像力」。墜落を想像するから飛行機に乗るのが怖いし、それを紛らわすためにも想像力を働かせる必要がある。そもそも創作のインスピレーションを得るのがこの旅の目的なわけで、鋭い観察・批評眼を武器に物語の欠片を探す様子がちょっと驚くほど詳細に記されている。作家の外界への接し方を見るという点で非常に面白かったです。もちろん単に旅行記としても。
もっとも、一番すごいのは、おそらくメモや写真を参照しつつも、あとからここまで細かく旅を再生できるところなのかもしれない(引き出しがやたら多いように見えるのは後日落ち着いた時に書いているからということもあるだろうけど)。恥ずかしながらこの方の作品を読んだことがないので、こういう目を持った人がどのような小説を書いているのか、読んで確認してみます。
文庫版には番外編が収録されているらしい。手元に置くならそっちかな。
最晩年のエッセイ集。身構えて読んだがわかりやすい。無限の時間のなかで耳をそばだてて、「聴く者が、そこに、それぞれの精神の地図を見出し、それによって、未知の(精神的)旅へ赴くことを可能にする」音の庭を拓くこと……これは音楽家の仕事でありながら、もっと直截に、詩人の仕事でもある。ここに書かれていることは僕が数年前に氏の音楽を聴いたときに得た感興となんら矛盾しないものであって、その一事をとっても信ずるに足る。あらためて作品に向き合ってみたいと思わされた。
巨大な商業主義の力で、私たちの感受性が開発されたのも事実だが、同時に、その枠組のなかに閉ざされてしまったことも、また、否めない事実である。
私がケージから学んだことは、外でもない、音楽は、生活と別に存在するものではないということだった。そしてさらに、ひとつとして同じ音はこの世界には存在しない、ということだった。それは、音の千差万別を聴き出すということであり、音は生きたものであって、それ自身の美しい秩序(オーダー)を具えている。それを正確に聴くことが、ある意味では、最も創造的な行為なのだ。