8月第3週
再読。主人公は地球滅亡の瞬間にちょうど『神曲』を読んでいたために、ダンテとラ・ロシュフコーの案内で、御者のラスプーチンの引く霊柩車に乗り、こちらも地球滅亡の余波で混乱中の地獄(インヘルノ)を見物することになる。地獄巡りの途では様々な著名人の罪業の場面が再現され、それに応じて奇絶怪絶かつコミカルな劫罰が用意されている。近代の文学史や芸能などの知識があればもっと楽しめそう。愛欲の地獄に堕ちた男はペニスケースを付けさせられて、常に勃起していなければ感電する、なんてことを書くのはさすが山田風太郎ですね。
しかしなによりこの物語の世界観というか哲学というか「地獄は人間の数だけ存在し、泡雪の雪片のように漂っている」というあり方が恐ろしくも美しい。
泡雪の中に立ちたる三千大千世界 またその中に泡雪ぞ降る 良寛
「文士の食事には、みな物語があり、それは作品と微妙な温度感で結びついている」。なかばゴシップ的な興味で読んだがこれはすごかった。食を通して見た、文学、人となり、そして生き様と死に様……テーマが卑近なだけに文人の生活がとても身近に感じられる。生とは分かちがたいのが食なので、たとえば食べることに頓着しない人についても逆説的に語ることができるし、作品からは見えにくかった部分に踏み込めて、作品の読みがより深くなる。切り口の大勝利。批評としても近代文学の手引きとしても素晴らしいです。くりかえし読みたい。
古事記―付現代語訳・語句索引・歌謡各句索引 (角川ソフィア文庫 (SP1))
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隠し部屋を査察して (創元推理文庫)
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「フーガ」、これは冒頭にも引用されているようにコルタサルの「続いている公園」の変奏であるが、対象が三人に増えている。三人を小説の「始まり」「中間」「終わり」のメタファーととらえてもいいし、コルタサルの作品より数が増えていることから、さらに四人、五人と増やしていくこともできる。その場合、循環的な構造を軽々と飛び越えて、すべての人々が虚構であり真実でもある地点にまで行き着く。
1巻:ひさしぶりに再読。まだ設定が固まってなかったのか、この手探りの感じが先の見えない霧亥の探索と重なる。
2巻:シボはかっこいいけど科学者としてのしたたかさも垣間見える。というかわりとせこい。ミイラの時は「体がいっぱいあるよー」とか言ってたのに、ちゃっかりイメチェンして無口な霧亥をカバーする役に収まってるあたり、なかなか押しが強い。
3巻:主人公が無口で背景が地の文の役割を果たしているようなところがあるからこそ、台詞のひとつひとつが魅力的に響く。植民者たちがやけに人間くさいのもいいし(「セーフガードが出たのよう!」「何ーっ!!」)、サナカンの「私/我々セーフガードは排除する」というのも読んだ当時衝撃的だった。
4巻:前巻あたりから急激にバトルものの色が濃くなり、この巻では明確に勢力争いの構図が完成する。禁圧解除、シボの七変化、珪素生物の介入など、絵的にインパクトのある見せ方が増えてきた。
5巻:パラレルワールドまで出てきちゃってさらに混乱を極める第5巻。描写されなかった場面をタイムスリップして描写するといういかにもSF的に凝った作りが面白い。10年ぶりに再会したシボの開口一番の台詞が「助けに来たわよ、霧亥」なのは、やっぱり初登場時を意識したのかな。10年間ずっと練習してたのか(笑)
6巻:東亜重工編終了。最初はAIの危険性を言っていたのに、結局はそのAIの情の部分に助けられたことになるのかなぁ。生き残った植民者のその後が気になる。で、幕間にあたる「Beautiful Life」は、もはや身体が格別な意味を持っていないこの物語において、嫌な身体性を感じさせるいい話。永久にクローンを造り続ける装置を前にしたシボの表情が印象深い。
7巻:非公式階層編。前回のエレベーター800時間に続き、いきなり2244096時間とか狂った数字が出てきて笑う。この漫画、あまりにスケールが大きかったり、変な間が生まれてたりするのが笑いを誘う。この巻の「ドッドドモ」「何やってんだおまえ!!」のコマは奇跡だと思うし、目の前でゴシュゴシュ扉が閉まるところもいい。あとドモチェフスキーとブロンのバトル! 片手で頭をガードして至近距離で撃ち合うなんてロマンが溢れまくってる。名シーン。
8巻:ここらへんのシボは余計なことしかしてないなぁ。最後は私欲に走ったせいでとんでもないことになるし。まあ今までの味のある描写の帰結といえば仕方ないか。女難のドモチェフスキーが始終振り回されてるのと、霧亥と合流したあとの明らかに空気の悪いパーティーがよろしい。色っぽいレベル9(大)も。
9巻:説明役の人間が消えて、人外しかいない都市に不思議な静謐感が漂っている。おそらく人間の孤独を慰めるために改造された建設者たちと、嘘をついてまでレベル9を引き止める建設者は、微かにリンクしているようで切ない。統治局サナカン(ブーツ脱いでたけど脚はどうなってるんだろう)とウサ耳珪素もかっこいい。画面の使い方がどんどん贅沢になっていく。
10巻:完結。コマ割りなど邪道と言わんばかりの画面がいっそ清々しい。気持ち悪い造形のセーフガードがたくさん出てきて、戦闘ともなればサナカンもやっぱりセーフガード型が基本だよなぁと。最後の最後まで相手の攻撃を受けて反撃で倒すという霧亥のスタイルは変わらなかった。プロレスラーなのか。とりあえず、端末遺伝子保持者はデバイスなしでネットスフィアに接続できるらしいから、あとは子供を守護しつつネットをいじればいいのかな? ということはそれを阻止するために珪素生物の攻撃も激しくなるんだろう。
珪素生物やネットスフィアの来歴が語られるブラム前史。サイバー一辺倒ではなくてどこかレトロな雰囲気がある(あとで調べたらトーンを使ってないらしい)。ジュネ映画みたいな感じ。最終話の結がサナカンそっくりなのは、保存されていた結のデータをセーフガードがサナカンに流用したのかなーとか考えると楽しい。そうすると本編のセーフガード組にも前身が想定できるわけで、ドモチェフスキーのやけに人間味があるのはそこに由来するのかもしれない。
世界中が謎のゾンビウイルスに汚染された未来を描く新シリーズ。まずヒロインをバイクで轢く(笑)。いやヒロインは熊か。その熊が喋ってる横で目をこすったり手を振ったりしているイオンがかわいい。あいかわらず銃撃に「バギン」とか「ギン」とか、パンチの予備動作に「ギギギ」とか独特の効果音は健在。続きを読みたいけどのちに版を改めて出ているので買い直さねば。