10月第1週

泉鏡花  新潮日本文学アルバム〈22〉

新潮社
売り上げランキング: 258398
写真と資料で見る鏡花評伝。まあ奥様がきれいだとか先生ちょっと線が細すぎるとかミーハーな興味に応えてくれる写真集です。ゆかりの人や場所、原稿や初版本の写真も充実してる。火鉢の前で兎の玩具を手にしてほっこりしている先生の姿が素敵である。

いろはの徳はむりやうなり。つかふときは、たいせつに。

 

「無憂樹」:ある職人が妻の形見として細工した香合をめぐる物語。変に被虐的でやりきれない話だが、クライマックスの月下墓前の法廷という趣向の異様さは特筆に値する。それと女が苦界に身を沈めて不幸な目にあうというのは鏡花的にぐっとくるシチュエーションなのか。気持ちはわかる。
「お弁当三人前」:幼年期の終わりに際しての幸福なひと時。小品。
「春昼・春昼後刻」:春昼の暗さは言わずもがな。今回はひさしぶりに後刻を読んで、そのうららかな狂気の中に流れる切なさに身悶えした。年々この後刻の存在感が増してくる。
 
草迷宮 (岩波文庫)
草迷宮 (岩波文庫)
posted with amazlet at 10.10.03
泉 鏡花
岩波書店
売り上げランキング: 99912
再読だが後半は覚えがないのでたぶん途中で止まっていたんだろう。鏡花のいくつかの作品と同じく逗子が舞台で、モチーフも他作品に通じているものが多く興味深かった。どこか呑気な肝試しの雰囲気がありながらも最後はしっかり彼岸に突き抜けるのはさすが。
 全作収録というわけではないのか。外国人から見た明治日本の印象記ということで、現代日本とのギャップでまるでファンタジーを読んでいるような気分にさせられる。というか、たかが盆踊りを「優雅な古代美の幻影」「死者たちを呼び醒ます、心たのしい幻」と見る視線は完全に幻視者のそれであり、たとえ正確さを欠くといえども稀有で得がたいものだといえる。次巻も期待。
 
音楽の落とし物―そして…その落とし物 (1980年)
神津 善行
講談社
売り上げランキング: 1426752
週刊朝日連載の音楽コラムをまとめたもの。軽妙な語りで内容は多岐にわたり、読んでいて得るところが多かった。プラーゲ旋風、「空洞なる所以を以て用を果たす」サティの音楽、効用音楽、大衆を無視したことによる邦楽の衰退……「自分だけしか理解出来ないような解釈では、一般的に通用しない」