5月第3週

なにもストーカーだけにとどまらず、安易にチェックリストやマニュアルから物事を判断するようなデジタルな心性について取り沙汰されている。「一斑を見て全豹を卜す」といった認識の危険性。分節は世界を認識するにあたって有用な行為だが、時にそれは危険を生むことを心しておきたい。

精神医学にせよ心理学にせよ、これらの学問は基本的に「後知恵」といった性格を持つ。(…)理解と説明のための学問なのであり、予言や予測のための学問なのではない。見破るだとか見抜くといった超能力めいたことのためにある学問なのではない。

 

神の力は聖人ないしは聖遺物を通して顕現するとされ、その意味で聖遺物はメディア(媒体)であった。聖遺物を天上と地上の間のアクセスポイントと考えれば現在のATMやネット端末に通じる。また、聖性を効果的に示すための装飾によってそれ自体が美術品にもなり、神の奇跡を再現する装置にもなる。現在の展覧会やアイドル崇拝などを考え合わせるとよい。
 
少年・卵
少年・卵
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谷山 浩子
サンリオ
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恋人の様子がおかしい。心配する鳥子が彼の家に様子を見に行くと、そこには家族を支配する不思議な少年がいて……。これは小品ながら面白かった。行き先不明の不条理なクエストが次第に不穏な色を帯びて、物語の終局では立っている足場が崩壊する恐ろしさを味わえる。他の作品や歌にも通底しているこの崩壊感は作者にとって重要なテーマなんだなと思う。
 
ロマンティックな狂気は存在するか―狂気伝説の解体学
春日 武彦
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「狂気なんてそうロマンティックなものじゃなくて実際はこういうものなんだよ」と狂気幻想を精神科医の視点から糺す本。よっぽど世に流布する狂気のイメージが腹に据えかねたのかところどころ筆が走っているが、内容は至極真っ当で素晴らしい。何事もステレオタイプには気をつけるべきですね。