5月第2週

境界―世界を変える日本の空間操作術
隈 研吾
淡交社
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境界とは内と外の関係性のことにほかならず、日本の建築は柔軟に境界を操作して関係性を維持する知恵を持っていた。自他の区別がゆるかったから境界を意識してバランスをとっていたのかもな。
 時計好きの浩子さんが時計の顔を持つ少女に連れられて時計屋敷を目指す。道中、様々に時計・時間に閉じこめられてしまった人たちと出逢い、浩子さんがたどり着いた先には……。んー、これはちょっとナンセンスが強くて、そのわりにはラストの解決が説明的に過ぎる気がする。一応時計テーマが貫かれているので統一感はあるけど、最後に来て「え、そんな話だったの」と唐突に感じた。まあこの投げ出されたあとの妙な切なさが魅力か。
 レヴィ=ストロースゆかりの地をめぐる写真集。レヴィ=ストロース邸の庭から始まって世界中をめぐりまた庭へ帰る。京都の枯山水に続いてオーストラリアの砂漠があったり、アマゾン高地と石垣島の密林が対置されていたりして、風景の中にひとつの神話的構造が立ち現れてくる。モノクロの落ち着いたトーンが心地よい。
 ガラパゴスや小笠原などの海洋島の生物を取り上げ、隔離状況下での生物種の進化の歩みを見る。運よく島にたどり着いた生物種は、ニッチががら空きの生態的開放状態の元、適応放散・遺伝的浮動創始者効果、ボトルネック効果)によって徐々に固有種として定着していく。局地的で個体数の少ない固有種は絶滅しやすい。樹木のないニッチに侵入したキク科植物が木になるというのはなかなかインパクトがあった。
 
蝶
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トーマス・マレント
ネコ・パブリッシング
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蝶と蛾の生態を一通りカバーした写真集。写真は美しいし解説もきちんとポイントを押さえていて満足。幼虫には未だに慣れないけど気持ち悪さも魅力のうちだと割り切りたいところ。
 国宝のデジタル復元とともに往時の鑑賞環境をも考慮し、日本の美術は鑑賞者のアクティブな働きかけ(参加する視線)の元で見られていたのではないかとして作品との積極的な対話を促す。昔は実用品やメディアの感覚に近かったのかもしれない。復元された「花下遊楽図屏風」の美しさには溜息が出る。
 
現代ヨーロッパの言語 (岩波新書 黄版 292)
田中 克彦 H.ハールマン
岩波書店
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「言語=民族」というイデオロギーをめぐる現代ヨーロッパの言語状況と諸言語概観。文章語の獲得が近代国家形成の前提条件だったとか俗語の解放とか、言語がアイデンティティを証することのメリット・デメリットを押さえる感じで。
 
ツイッター 140文字が世界を変える (マイコミ新書)
コグレ マサト いしたに まさき
毎日コミュニケーションズ
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検索エンジンから得られる情報は「過去」のものであり、あらかじめ検索キーワードを知っていなければならない。それに対して、Twitterは「今」に特化したサービスで、情報は一回性のタイムラインに流れてくる。と、そういうことならテレビを朝から晩まで注視する必要がないのと同じで、律儀にタイムラインを追わなくてもいいか。もっとラフに考えよう。
 
燃えるスカートの少女 (角川文庫)
エイミー ベンダー
角川書店
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時間をかけて読んだが最後まで入りこめなかった。全体に漂う寂寥感、テーマを明確に打ち出さない姿勢、それらを描き出す詩的な筆致が魅力だというのは理解できるけど、自分はひたすらきまり悪く感じた。「どうかおしずかに」のハッピーエンドを許さない冷徹な結びは良い。ほとんどホラー。