6月第1週

柳田国男のテクストを丹念に読み解くことで、民俗学がその始まりにおいて選んだもの選ばなかったものを問い直す試み。大雑把に言えば、柳田後期の「民俗学」誕生によって穏やかな稲作の思想が選び取られ、初期の漂白民・山人・アイヌなどのアプローチは祀り棄てられたという。周縁・外部に捨てられた思想を問うということで、著者の過去作を読んでいれば様々にオーバーラップするところがあって面白いかと思う。
 
魔笛
魔笛
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那須田 淳
講談社
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絵はミヒャエル・ゾーヴァ。頭のてっぺんから火が出とる。
 
オキーフの家
オキーフの家
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クリスティン・テイラー・パッテン マイロン・ウッド 江國 香織
メディアファクトリー
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画家ジョージア・オキーフの住まいとその周辺の写真集。棚に並べられた動物の骨、井戸蓋の上で続けられる石のチェス、あまりに象徴的なメサ(台地)など、抽象性の高い静謐な世界が切り取られている。こんな風景の中で営まれる暮らしを思うと溜息が出るな。

ひとりの人間と、その人の自我との関係は、もっともごまかしのきかない関係である。

砂漠もまた砂漠のもくろみを持っている。

 

心に狂いが生じるとき―精神科医の症例報告
岩波 明
新潮社
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アルコール依存症統合失調症摂食障害など、九つの症例を紹介する。これは良かった。それぞれの臨床例が余計な私見を交えずに提示され、それでいて説得力を失わない程度に整えられている。裁判員制度を意識している節もあり、鬱病への国家的な取り組みをうながす点も好印象。精神疾患の知識がない自分にはとても勉強になった。この人の本は他にも読んでみる。
 
悪魔のささやき (集英社新書)
加賀 乙彦
集英社
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ふとしたときに人を犯罪や愚行に向かわせる「悪魔のささやき」について。社会の刑務所化による影響(プリゾニゼーション)で、元々流されやすい性向を持つ日本人はことさらに悪魔のささやきに流されやすくなっている、ということらしい。うーん、どうにも話が抽象的で、対処法が「時には間違うこともあるからそうならないように気をしっかり持とう」では使えるのやら使えないのやら。単に姿勢を見直す意味ではいいと思う。
 
ずっと死体と生きてきた。
上野 正彦
ベストセラーズ
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第一章、自殺死体がどうなるかはなかなか興味深かった。飛び降り自殺で体内が破壊され、骨の重みで辺縁性出血が生じるというのは、思ったよりも人間の体は水っぽいんだなと得心がいった。ただ監察医の知見はいいのだが、とにかく自殺はいけない式の単純な倫理観と、退役軍人さながらのアピールには少々鼻白む。淡々と書いてくれればよかった。
「必要な部分だけを梅干し大に切り」みたいなレトリックがいかにも現場の人という感じで面白い。
 
世界の路面電車
世界の路面電車
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ピエブックス
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とにかく明るい写真集。もうちょっとレトロ路線も見たかった。イタリアの古い町並みが素敵だ。
 
あたりまえのこと
あたりまえのこと
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倉橋 由美子
朝日新聞社
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単行本にて再読。
 
それと上記のほかに、全国水土里ネット『疏水のある風景』2009年写真コンテストの冊子。これは普通に流通してないみたい。写真も素敵だけど、「風連東乙支線用水路分水枡」「猫谷地疏水」「江戸川水系緒絶川」など疎水の名前がイカス。
http://www.inakajin.or.jp/sosui/event/0911gallery.html
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