6月第2週

霊感少女論
霊感少女論
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近藤 雅樹
河出書房新社
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霊感があると自称する人々を取り上げ、彼らと社会との関係を見る。少女論とあるがこれは便宜的なもので、「性別に関係なく、民俗社会の世界像のなかで暮らしている伝承者タイプ」が対象らしい(とはいえ「少女」とした是非は別口で問われるべきだが)。従来の村社会にあった「民俗知」が一部の人に都合よく使われ、それが現代的なコミュニティでいびつに増幅されているとのこと。オウム事件が尾を引いているのか異界に近しい人に批判的だが、90年代の怪談ブーム周辺の事情は説明されている。強弁を了解しつつざっと把握するにはいい。
 古写真・絵葉書が好きなので手に取ってみた。現在も残る木造駅舎は本当に当時のままなのだなぁとどうでもいいことに感動。知識や土地勘があればさらに楽しめるのだろうけど。あと連絡船・ケーブルカー・ロープウェイもわずかながら掲載されていて、ケーブルカーがまた良い。宙ぶらりんのロープウェイは背景が空だったりするのでいまいち興趣に欠けるが、ケーブルカーは山の斜面を切り開いているのがダイレクトに伝わってくる。凄いところを登ってるんだなと。
 
マクルーハン (ちくま学芸文庫)
W.テレンス ゴードン
筑摩書房
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ひとまず通読。「あらゆる『人工物』を身体や精神の『拡張=メディア』と捉え」たマクルーハンの思想をわかりやすく解説している。提示された具体例のほかに身近な物事を当てはめながら読むと理解が進む(疲れるけど)。もう何度か読んでみよう。
 
幻のロシア絵本 1920‐30年代

淡交社
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ロシア・アヴァンギャルドとともにあった華やかなりし絵本文化を展望する。ロシア革命後、児童教育が国家的な急務とされ、未来派構成主義の成果をもとに質の高い絵本が続々と作られた。なのでデフォルメの効いた構成的な絵本が主流を占める。ポップで軽やかな絵は眺めているだけで楽しい。それと個人的には文の比重が大きいのが意外だった。『森は生きている』のマルシャークやダニイル・ハルムスなど、主に詩人や作家が文を担当している。暗い時代を前に幸福なひとときだったのだなあ。
 
私たちはなぜ狂わずにいるのか (新潮OH!文庫)
春日 武彦
新潮社
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「私はなぜ狂わずにいるのか」あるいは「彼はなぜ狂気に生きているのか」。精神医療・患者、それぞれの立場から狂気を検証することでその内実を測る。正気と狂気の間には越えがたい壁があり、狂気に見舞われることは理不尽な災厄であり「疾患」である。疾患であるからこそ薬物療法が必要とされもし、治療のために患者の狂気の物語に耳を傾ける必要も出てくる。精神科医を「狂気という物語を読み解き、それを『病気の克服』という物語へ編集し直す者」とするスタンスは非常に誠実で好ましい。
 
MEXICO:HOTELS
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小野 一郎
アスペクト
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コロニアル様式というのかな。空白に充満する装飾が宗教性と土俗的な雰囲気を強く感じさせる。特徴としては、陰影が濃い(これは写真によるかも)、タイル等の過剰な装飾、バルコニー、漆喰・木・鉄。ゴシック・バロック・アールヌーヴォーを南米流に作ってみたら凄いものができたという感じ。中でもメキシコ・グラン・ホテルの壮麗なホール(表紙)は一見の価値あり。
http://tumblr.com/xlf2v9zvmk
 
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)
松永 和紀
光文社
売り上げランキング: 10872
マスメディアを鵜呑みにせず自分で情報を精査すること。リスク・ベネフィット・トレードオフ、それと国家間の政治的な駆け引きについてはもう少し意識してみよう。ただ、このとおりにリテラシーを高めていくのも限界がある。ある程度は騙されるのを折り込み済みで、騙された時どう対処するか。その意味ではチェックリストの最後の項目「新しい情報に応じて柔軟に考えを変えてゆく」は重要だ。