7月第5週

(読んだのは単行本)
2004年の心中事件の呼びかけ人の女性とも交流のあったライターによるルポと考察。事件を追いつつ、ネット上に様々に存在する生きづらさのサインを取り上げ、ネットがそれをマイナスに増幅する危険性とともに、生きづらさを脱する契機にもなるということを強調する。与えられた環境や経験によって作られた人それぞれの自己イメージ・物語を、コミュニケーションを通して編集しつづけていく、それが生きづらさを脱する方途なのではないかと。物語でしかない人生について考えることが多かったのでこれは非常に示唆に富んだ内容だった。
 
チェルノブイリ 春
チェルノブイリ 春
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中筋 純
二見書房
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松が燃える
燃えさかる
木の下にいる女の子
肩にかかったみつあみを
そろえながらつぶやいた
ああ、みつあみよ、あたしのみつあみよ
長い間ありがとう
もうすぐお別れだね
角かくしの白いハンカチで
すっぽりおおわれてしまうのだから
松が燃え
煙の向こうに一人の男
ああ、あたしの愛する人

 

堤中納言物語 (岩波文庫)
大槻 修
岩波書店
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有名な「虫めづる姫君」がずば抜けているがどれもなかなか面白かった。オムニバスの構成が美しい「ほどほどの懸想」、他愛なくも幸福な余韻を残す「貝合」が特にお気に入り。ささやかな物語の小箱。
 一九世紀末から冷戦終結あたりまで。やはり人種問題が大きく取り上げられている。
 ゼーバルトから流れてきた。いつまでも浸っていたいと思わせる美しい自伝。繊細なまなざしが文章の上に鮮やかな過去を結ぶ。これはくりかえし読むことになりそうだ。