9月第2週

反証可能性とそれを通しての対話の必要性を説くところから始め、知の現場の様々なアプローチを概観し、硬直した枠組みへの異議申し立てとなる「不同意の技術」の習得を目指す。本の作りがまさに対話的かつ技法の道具箱といった風で、言語やイメージの読解の方法、情報の利用、他者との関係、さらには論文の書き方や発表の作法といった具体的なものまでフォローしている。まあ方法はいろいろあるので人と対話しながら使っていきましょうくらいの理解でもさほど問題ないと思う。とりあえずは。
 
寝ながら学べる構造主義 (文春新書)
内田 樹
文藝春秋
売り上げランキング: 3362
絶対的な審級や主体を否定して、社会や他者や言葉との関係においてのみ自己が定位される。なおかつ、その結論にも懐疑の目を向ける、あるいは固定化を嫌うという構造主義の性格が、再読でもう少しきちんと理解できた。「ことばづかいで人は決まる」とはなるほど至言だ。
 
知の旅への誘い (岩波新書)
中村 雄二郎 山口 昌男
岩波書店
売り上げランキング: 287804
のびやかで冒険的な知の営みを「旅」に重ねて探る試み。前半を哲学の中村雄二郎が、後半を文化人類学山口昌男が担当している。硬直した知を退け、中心と周縁の往還運動を通して知をブリコラージュし、「魂の暗黒をたずねる」。それは迷宮をさまよう旅であり、自らの位置を変えることで事物を相対的に眺める方法でもある。後半、トリックスターの運動そのままの山口氏の道行きにドキドキさせられた。
 
ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
高木 徹
講談社
売り上げランキング: 54234
(読んだのは単行本)
ボスニア紛争の裏で戦争の行方を左右したPR企業の姿を描くドキュメンタリー。国際政治がいかに恣意的か、そしていかに人がわかりやすい構図を必要としているかが、一企業の働きを通して小説的にまとめられている。ルーダー・フィン社がやったことは倫理面では(社内審査を通しているにせよ)おそらく真っ黒で、あくまでもスポンサーの利益に徹するところから「情報の死の商人」という悪名も頷ける。PR次第で大局が決するのならネットが発達した現在はどうなっているだろうか。

どんな人間であっても、その人の評判を落とすのは簡単なんです。根拠があろうとなかろうと、悪い評判をひたすら繰り返せばよいのです。(…)たとえ事実でなくとも、詳しい事情を知らないテレビの視聴者や新聞の読者は信じてしまいますからね。