やって後悔したひどいネトゲに対する恨み辛みを聞かせてください。

経済学の分野で「サンクコスト」という概念があります。あるものにかけたコストはもう取り戻すことができず、取り戻そうとしても無駄になるという考え方のことです。人は往々にして自分の選択を認めようとせず、そのため盲目的に失敗を重ねてしまいます。どう考えても採算が取れないのに資金だけが注入されるダム計画とかありますよね。

ネットゲーム……仮にAと呼びます。Aはブラウザ上で遊べる対戦型カードゲームで、登録とともにスターターデッキが配られます。遊戯王のようなものを想像してください。ただ、Aは最初期に「トレーディング」カードゲームを謳っていたのですが、その実、ユーザー間でのトレードはできませんでした。

まあそれくらいなら少し誇大な宣伝かなと我慢もできます。基本的には必要に応じてカードを買い足す、あるいはプレゼントカードなどをゲットしてカードを増やし、多様なデッキ構築で対戦を楽しむ。そんな平和なカードゲームになるはずでした。

しかしAの運営会社はある商法を選びます。定期的にパックで売り出される新カード、これをバランス無視の強カードにしたのです。当然、ユーザーは強いカードに群がり、対戦環境は一色に染まります。考えてもみてください。対戦する相手が皆自分と似たり寄ったりの構成のデッキを使っているのです。

プレイ環境は激変しました。20分から30分のゲームで、最初の3分くらいで先に強カードを場に出したほうの勝ちが確定します。残りの時間は一方的に蹂躙されるのをぼんやり眺めるだけです。もちろん反撃もできますが、圧倒的な不利は変わりません。

これは明らかにバランサーの怠慢です。強カードを揃えたプレイヤーがそれ以外のプレイヤーを作業的に狩るようになりました。次第に環境の自由度は消失し、あとには重課金者だけが残るという蟲毒のような様相を呈します。

さて一色に染まった環境を打破するにはどうすればいいか。運営が出した答えは「強カードを修正する」でした。一見普通の対応に思えます。が、カードを買った側からすればたまりません。お金を出して買った強カードがゴミになるのです。

以上のことは現実のカードゲームでも発生する事態です。それによってきちんとバランスが調整されるのなら仕方のないことです。しかし……Aではこれを新カードの発売ごとに繰り返します。毎回です。ある種の焼畑農業です。カードを買わなければ勝てないし、買ってもしばらくすればゴミに変わります。ここでユーザーは、Aが対戦カードゲームというよりはパチンコのようなものだと気付きます。

そのような焼畑農業を繰り返していれば当然ユーザーの不満も高まり、さすがに環境にも無理が生じてきます。あまりの死にカードの多さ、廃人が勝つだけのゲーム、それらの問題を一挙に解決するために、なんと運営はA2という新しいゲームを始めました。Aのカードと環境を切り捨てる実質的なリセットです。

これにより、今まで集めてきたカードは文字通りのゴミになりました。もはや弱いカードですらないのです。使用できないカードです。旧Aは一応まだ稼動しているのですが、A2に人が移ってしまいました。このあたりがゲーム自体を見切るタイミングだったと思います。

ここまででゲームを始めて数年が経っていました。よく付き合ったと思います。さて、あらためて「サンクコスト」です。今まで苦労して集めてきたカードを捨てられず、長い間遊んできたゲームを見切ることもできず、惰性で続けてしまう。その結果、さらに泥沼にはまっていく。もうゲームにかけたコストは取り戻せないのに、です。

最終的にはPCの故障でネットに繋げない時間ができて、ようやく手を切ることができました。金銭面ではそれほどでもなかったのですが、時間や労力の面で相当に吸い上げられたと感じています。もっとも、その「コストをかけた」という感覚が一番厄介なのですが。

あと付け足すと、勝ち負けにそれほどこだわらなくなりました。蟲毒のような環境の中で勝つ虚しさというか、どんなに勝ってもなんにもならないというのは身にしみています。ゲームは気持ちよく遊べるなら勝ち負けはどうでもいいんじゃないかと考えています。

参考になれば幸いです。