月と不死、月世界にて
月と不死
目を瞑り月の女の名を呼ばう 指に安らう蛾のやわらかさ 梟の灯りを頼りに船は進む 翼は煙 心は砂糖 銀の盆 兎が行き来するたびに紫色の林檎が落ちる 不死の父を時計の中に閉じこめて蠢く鍵を水に沈める 蒼白の月の光で生きたまま燃やした手紙は月に昇る
月世界にて
縄が切れた首吊り月のころんころん転がってゆく先の湖 黒猫を振り回している友達と目を合わせないように歩く 容疑者は「月がきれいですね」などと供述しており 日記には月齢を書く欄がある そろそろ割れる腹の風船 月世界一望すれば寂しげに観覧車のむこうは闇夜