短歌

日曜日に別れを告げて

日曜日に別れを告げて あの人が欲しいと猫に頼んでも黙殺される血の日曜日 空色のホースの中をのろのろと運ばれていく真っ赤な金魚が 人のいない午後は眠くて寂しくてひよこを埋葬するにはぴったり 淡々と折りつづければ世の中がわかる気がする人形の指 陽が…

独楽の回転

独楽の回転 風ぐるまくるりくるりと目を回すロールケーキに巻かれて眠り 千年のあいだ噛んでたガムあげる兄さま姉さまご賞味ください 瀬戸物の茶碗が砕けてばらばらになりつつ地下を大冒険する 警官にやさしく肩を叩かれる 白い狐を見たことあるか ペリカン…

まつりのあと

まつりのあと 百万の蛙と同じ数だけの忍者がいると思えば楽しい この夜の全ての書肆の灯りをも狂って吹き消す風のいじわる 大輪のひまわり折れているばかりこの世の息をあの世でも吸え 舞殿で無心におどる鬼の群 祭が果てたら車で帰る

人間もどき

人間もどき 廃屋の畳の裏でにぎやかに繁栄していく福祉国家 豆球に妖精一匹閉じこめて九蓮宝燈夜は更けゆく 虫けらになりたい虫になれなければ活版刷りの旧字でもいい 子供らはぱ・い・な・つ・ぷ・ると唱えつつ舗装したての道を蹴散らす 一人消え二人消えし…

月と不死、月世界にて

月と不死 目を瞑り月の女の名を呼ばう 指に安らう蛾のやわらかさ 梟の灯りを頼りに船は進む 翼は煙 心は砂糖 銀の盆 兎が行き来するたびに紫色の林檎が落ちる 不死の父を時計の中に閉じこめて蠢く鍵を水に沈める 蒼白の月の光で生きたまま燃やした手紙は月に…

夜間閲覧室

夜間閲覧室 梨を剥く間にバスは図書館へ 風の果てには悪魔が待つ 司書の目を盗んで書架を渡り歩く 本は野菜のように選ぶ ノートにはただ星屑が並ぶだけ 孤独を星の言語で記す 錆びついた巨大な鋏が待ち受ける 黒いページに栞を挟む 未明までチェスで戦う司書…

散歩の効用

散歩の効用 四つ辻の老人ホーム日が暮れて色とりどりの折紙の森 泣き濡れた同級生の美容師に長靴一杯の画鋲をもらう 「亡くなった人に救いはありますか?」色白の男に呼び止められる 鮮魚店から出た水が焼肉屋の玄関脇へと流れていく 踏切がいつまでたっても…

羊人間の夜

羊人間の夜 眠れない夜は羊人間の数を数えて眠るとよい ゲバ棒を構えた少女一斉に海に向かって雪崩こむ夜 ひき割りの納豆の雨さめざめと夏の夜更けに卒塔婆を濡らす 子供たち川を流れてゆく途中賽の河原で花火に出逢う 眠れない羊人間連れ立って映画館まで散…