10月第4週

旅の冒険―マルセル・ブリヨン短篇集
マルセル ブリヨン
未知谷
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五篇を収録。およそどれも詩的散文にプラスアルファして話がくっついている趣で、物語を楽しむというよりは意識の迷路をさまようのが眼目である。これは作者が己の内界を探るために書いているのだと思うが、だからといって読んで面白いかというと非常に言葉に困る。本書の中では内界の探索が上手く昇華された「なくなった通り」が一番楽しめた。ピラネージ風の建造物の中、普通に道を歩いていてはたどり着けない「なくなった通り」を求めて巡り歩く。オーソドックスなゴーストストーリーとしても楽しめる。
 小説指南かと思いきや近代文学の解説を通して各自読み取れというものであった。紹介されているのは、田山花袋志賀直哉宇野浩二芥川龍之介永井荷風横光利一太宰治椎名麟三と、いわゆる「私小説」をひとつの軸にして、実存を描く様々なあり方を見ていく。私小説の形成からその解体(?)、主体の描きにくさへとシフトしていく様は、後藤明生が作品で採用している方法論とかなり重なっているように思う。個人的には芥川の心理を相対化する方法、横光利一の自意識を関係性によって描く方法が面白かった。『機械』が読みたくなる。
 自身の経験に即して精神科医の傾向100項目をピックアップするエッセイ。形式が非常に面白くて、患者に翻弄された経験を述べたすぐあとに(患者に翻弄される医者)などと冷静なキャプションが差し込まれるのが妙におかしい。これは自分を相対化するスタンスといってよくて、医者も患者も一歩引いた立場から俯瞰する視線は、たとえば主観的でとんでもない治療を行う医師を対置してみればとても信用できるものだ。そういった意味で、本書は精神科医の内情を開陳するのみならず、コミュニケーションの姿勢を説いた一冊とも考えられる。
それにしても今回は特に文章が冴えているように感じた。思わぬところからつなげる構成の巧みさが素晴らしい。
 
これはパイプではない
ミシェル・フーコー 豊崎 光一 清水 正 Michel Foucault
哲学書
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パイプに「これはパイプではない」と付されたマグリットの絵を論じ、言葉とものとの共犯関係を明かす。じっくり考えれば面白そうだがなぜかあまり乗れなかった。フーコー本人が構造主義者と呼ばれる=名付けられるのを毛嫌いしていたことを思い起こす。
 前半のゆるふわさに油断していたら後半の本気っぷりに驚いた。これを精密に読めばそれなりの方法論が得られる、と思う。すいません、ノートとりながら読み直します。
というわけであらためて後半を再読。

ひとりの夢や絶望は真空を伝わって万人の心に届く。