11月第2週

ボルヘス怪奇譚集 (晶文社クラシックス)
ホルヘ・ルイス ボルヘス アドルフォ ビオイ=カサレス
晶文社
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古今東西の奇譚を収集した一冊。その性質上、百科事典を気ままにめくるような面白さがある。ただし「怪奇」を期待するものではない。論理がねじくれた掌編の集まりという趣で驚くほど頭に残らないので、気が向いたときにでも紐解くとよさげ。
お気に入りは「城」「ふたりの王とふたつの迷宮の物語」「宝物」「偏在者1・2」「学問の厳密さ」「不眠症」。それと訳者あとがきの「本書におさめられていない話の探索のために宇宙という図書館をいまいちど訪れてもよいだろう」

こうして彼が大きな城の前にやってくると、その正面にはこういう文句が刻まれていた。わたしは誰のものでもなく、誰のものでもある。はいる前に、おまえはすでにここにいた。ここを去るとき、おまえはここに残るであろう。

「城」 ディドロ『宿命論者ジャック』(1773)より
 

アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)
ホルヘ・ルイス ボルヘス
現代思潮新社
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詩文集のようなエッセイのような旅の記録。これはボルヘスに一通り親しんでから読むともっと楽しめるかなぁ。世界はプラトン的な原型の影に過ぎず、言葉はさらにその影、ということは世界は鏡の乱反射、みたいなことを勝手に受け取ったが読む人ごとに違ってきそうである。あと、ボルヘスの日本についての知識はラフカディオ・ハーン経由っぽい。

ピラミッドから三、四百メートルほど離れた場所で、わたしは屈みこんで一握りの砂をつかんだ。少しばかり遠くに移動して静かにそれをこぼし、小声で呟いた。『わたしはサハラ砂漠の姿を変えようとしている』。(…)これを口にするために自分の全生涯は必要とされたのだ、とわたしは思った。

 

雨の午後の降霊会 (創元推理文庫)
マーク・マクシェイン
東京創元社
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(読んだのは別の版)
霊媒師としての名声を得るために誘拐を企てた夫婦。しかし思わぬ手違いが生じて…。これは半分あたりまでどうにも退屈だったけど、後半急に物語が動き出して楽しめた。身代金の受け渡しがうまくいくのかとか犯行が露見しそうとか、そういったごくストレートなサスペンスの面白さに加え、計画がずさんなせいでドタバタしてるのもわりとおかしい。幻想小説のようなタイトルだが幻想味は少なめ(ないことはない)。あとなんか映画っぽいなと思ったら実際に映画化されているらしい。
 
令嬢クリスティナ
令嬢クリスティナ
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ミルチャ エリアーデ
作品社
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とある貴族屋敷に逗留した画家と学者の二人は、住人の不可解な様子に奇異の念を抱く。どうやらそれは三十年前に死んだ令嬢に関係しているらしいが…。エリアーデの処女幻想小説とのことで、ルーマニアの吸血鬼伝説を下敷きにした幽霊譚である。夢の中をさまようような感覚が終始つきまとい、登場人物たちが怪異に翻弄される様はもどかしさを感じさせる。加えて幽霊側も妙にせこいというか、帯のあらすじに書いてあるような派手な話を期待すると肩透かしを食うかもしれない。むしろ恋物語と考えたほうがいいのかも。よくできてるんだけどね。
 吉田健一訳。シンプルな訳だが言葉遊びの部分は説明で済ませていたりする。全体的にクール。