11月第1週

チェルノブイリのレポートに福島原発事故直後の状況を加筆したもの。初版は2011年5月25日と、まだ事故から日が浅いうちに刊行されている。チェルノブイリの教訓がまったく生かされていないことには憤るしかないが、それよりもっと恐ろしいのは今後の健康被害だろう。これまでの政府・メディアの発表を顧みるとどれも信用できたものではない。残念なことに先頃、政府推計の倍を超える汚染物質が放出されていたというネイチャーの試算が出た。
 
あたりまえのこと (朝日文庫)
倉橋 由美子
朝日新聞社
売り上げランキング: 141599
(読んだのは単行本)
芸としての小説について。ただ平易なだけで幼稚な文章や、細かすぎて冗長な文章が名文なのではない。十分な思考の跡がある、あるいはそれが自然になされている文章が名文である。
 フーコーの生-権力概念を念頭に、バイオテクノロジーの発達にともなう政治・倫理的諸問題を概観する。扱われているのはヒトゲノム、バイオバンク、ヒト胚、人体の商品化など、「内なる自然」の解明とともに表面化した問題で、各国の取り組みを比較して新しい規範への思考を促している。諸外国との問題意識の共有は早急になされるべきだと思うが、昨今のTPP騒動を見るにつけ、なかなか暗澹とした気分にさせられる。政府は頼りにならないから結局は民間が頑張るしかないということなのかな。
 
随筆集 狐のあしあと
随筆集 狐のあしあと
posted with amazlet at 11.11.05
三浦 哲郎
講談社
売り上げランキング: 883494
随筆集。周辺の物事を徒然と綴っている。自然体のやわらかな文章がいい感じ。中でも中国旅行について書かれたものは特に良かった。この本に限った話ではないけど中国の事柄には独特の魅力があって、本書でも、上海鼻烟店、魯迅の竹夫人、石林、「牙」という看板を出す歯医者と、字面だけでもなにか色気を感じる。

石林というのは、海底から隆起した三億年前の石灰岩が数千万年にわたる風雨の浸蝕で形成されたという石柱群で、その規模の大きな奇観には驚かされる。雨を吸った石林は、しっとりと千古の静謐を保っていた。シジュウカラが啼いていた。オオルリも啼いていた。