2月第1週

憂愁に彩られた回想録。『墓の彼方からの回想』第一部の訳らしいが省略が多すぎてぶつ切りになっている。ゼーバルト土星の環』中で紹介されていたエピソードも後日譚が省略されて味気ない。文章自体は素晴らしいのに。

人は私に私の存命中にこの「回想」の幾つかの断片を出版するよう急き立てたが、私は柩の奥から話す方を選ぶ。(…)生は私には適しない。死の方が私には多分よく合うであろう。

 

アイスランド小史
アイスランド小史
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グンナー カールソン
早稲田大学出版部
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ざっと一通り目を通した。アルシンギ(議会)、北欧諸国との関係、産業など。あとはエッダ・サガにあたってみたい。
 ヴンダーカンマー(不思議の部屋)とは美術品や珍奇な物品を集めた部屋のこと。好奇心を満足させるもの、ヨーロッパ世界の拡大によって新世界からもたらされた文物を、狭い空間に陳列して宇宙全体を表現した。時には見世物小屋的に利用されつつ、それは各地で隆盛を誇ったという。しかし蒐集物の増加とともに物品の分類・選択が進み、初期のいかがわしさは薄れ、次第に博物館や美術館へと発展していく。こうした容量の問題はいつの時代も変わらない。無駄を省くと知は硬直化してしまう。
 
三本の緑の小壜 (創元推理文庫)
D・M・ディヴァイン
東京創元社
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複数人が一人称を交代していくことで各人物が多角的に描写される。ある一人の視点で外から描写された人物が次の章では語り手になっていたりするわけで、こっちから見ればこうだけど逆から見れば少し印象が変わる、みたいに裏表が見られて面白い。ファーストインプレッションを覆しながら事件やロマンスが進展するさまはさすが『高慢と偏見』の国の作品だと感心した。

誰に対しても、客観に徹することなどできはしない。まず、心の中にその人物への評価があり、そのレンズを通してすべての言動を見ることとなるのだ。いったんその評価に疑いがきざすと、これまで築いてきたもののすべてが崩れおちてしまう。新たな評価も、最初の評価と同じようにまちがっているのかもしれない。真実は、往々にして中間点に位置するものなのだ。

 

石からうまれた孫悟空 (孫悟空のぼうけん)
曽 佑〓@59E1
岩崎書店
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全十巻。
中国人画家ツンユーシュエによる劇画西遊記。誰しも子供時代に耽溺した本があると思いますが、自分にとって本シリーズがそれにあたります。悟空の誕生から修行時代、天界を巻きこんでの大騒動、妖怪を退けながらの天竺への旅と、悟空と一行の天衣無縫な冒険が生き生きと描かれており、大人になった今でも色褪せません。