我楽多

たわんだ梯子を昇った先に
いつしか封じられた祖父の部屋があり
年代ものの楽器や、洗濯ものに埋もれた格好で
まだ生前の祖父がじっと
古い謡曲集をめくっていた


おやひさしぶりですねえ、などと
軽く挨拶を交わしつつ我楽多を
こんなところにいいものがあった、
これはまだまだ使えますよ、なんて
さらにも地層の深みへ進むあいだ
祖父は手早く頁を繰り
何かメモを書き記しているようで


そうしてしばらく過ぎて
淀んだ空気を入れ替えるために
ベランダの窓をいっぱいに開け放てば
向こうの畦道に葬列が立ち
黒いスーツや喪服の人がそぞろ歩く
それは懐かしい妹の
何度目かわからない記念日


ああ元気にしてるかな
たまには会いたいな
そういえばさっきの我楽多の中に
あいつが昔読んでた絵本があったっけ
埃まみれのそれを拾い上げて
傷だらけになった表題が判らず
本当に胸が詰まった