山のこと(2)

 南斜面に一部、平らな土地が広がる。かつては藩の御成敗所があった場所で供養塔が残されている。昔日は川が流れて、そこは川原だった。御成敗の終わった罪びとはそのままの姿で川原に晒された。


 御成敗のあった夜は決まって妙なことが起きた。罪びとの血を吸うために無数の蛸が海から遡上し、川はまるで麦の穂が揺れるばかりにざわついたという。人々はそれを気味悪がり、考慮の末、大量の砂を撒くことにした。結果、吸盤に砂が詰まった蛸は海に帰ることができず死んでしまった。それからはもう、一匹の蛸も現れることはなかった。


 死んだ蛸の祟りを恐れて祀ったことから、今でもその場所を「蛸明神」と呼ぶ。