2月第1週

ポストガール (電撃文庫)

ポストガール (電撃文庫)

荒廃した世界で郵便配達をする機械の少女シルキーの成長を描く連作短編集。機械に心が、と書くとありがちですが、戸惑いながらも人の心をバグとして学んでいくシルキーのひたむきで健気な姿には打たれます。シルキーの届ける手紙に気持ちがこめられているように、物語にこめられた感情がたしかに伝わってきました。
 
ポストガール〈2〉 (電撃文庫)

ポストガール〈2〉 (電撃文庫)

2巻では過去の戦争がクローズアップされて人間の業といったものが前に出てきた印象。良いことも悪いことも当然存在するものとして世界が描かれているのが好ましいです。また、シルキーの成長に合わせるようにその家族とも言える人々が多く登場し、成長や苦悩がシルキーひとりだけのものではないということが感じられます。
 
ダブリン市民 (新潮文庫)

ダブリン市民 (新潮文庫)

エピファニー」についてはいまいちわからなかったけど、普通の人々の普通の生活を拾い上げ、それがけして普通などではないと示してみせたのは素晴らしいと思う(あれ、これがエピファニー?)。平日の午後に町をぶらぶら歩くと似たような感慨が湧きます。あと話と話との間にモチーフ上のリンクがあったりして、最終的にダブリンの町が奥行きあるものに見えてくるのは面白かった。短編集ならでは。
 
線路と川と母のまじわるところ

線路と川と母のまじわるところ

トランスポートと流れる時間、そこに母がまじわる3篇を収録。物語が比喩に逸らされたかと思えばそれが幾重にも重なって継いでいくという酩酊を感じさせる作風は健在。ただ今作ではあまりにシェイクされすぎてついていけなかった。その掴みどころのない感覚が魅力と言えば言えるけど、気持ちに余裕があるときでなければきつい。
……というのが読了直後の感想だったけどさすがに内容に触れてないので補足。この人の使う比喩はあるものを別のものに喩えて意味伝達の方便とするのではなく、そこに別種の現実を開いて重層的な世界を現出させるものです。なので普通は始めから終わりまで一直線に流れる物語が、点描でちくちくと刻まれたように幅を得ているのですが、それに乗れるかというのはまた別問題。で、主題としては(他の作品と同様に)母と子が焦点にあって、『旅する部族』では捨てられた子供の視点、『皮膚に残されたもの』では母の視点、『線路と川と母のまじわるところ』では3篇を通して通奏低音にあった「母と子の別離」の原因としての民族問題/民族間の不理解が描かれる。なかなか取っつきにくい作品ですが得られるものも大きいのではないでしょうか。
 
海に落とした名前

海に落とした名前

4篇を収録。『時差』では帰属するものへの意識が薄い人々の姿を描き、『U.S.+S.R. 極東欧のサウナ』は国と歴史の端境であるサハリン紀行の体裁をとりながら特異な記述で小説を揺るがし、『土木計画』では読者が信ずるところの言葉を逆手にとってみせ、『海に落とした名前』では名前と過去を失った人間の顛末を辿る。どの作品も中心の大事なピースを失った風で、アイデンティティの寄る辺なさを意識させるとともに、その不安定な状態で語り続けるということが強く見つめられています。いやー面白かった。
 
始皇帝陵と兵馬俑 (講談社学術文庫)

始皇帝陵と兵馬俑 (講談社学術文庫)

陵墓そのものは未発掘なので、兵馬俑や周辺の遺跡や、歴史考察などの比重が大きくなるのは少し考えればわかることだったが。。

現実の人間を、馬を、そして宇宙を、大地を、宮殿を、何もかも地下の世界に再現すること、それが始皇帝の霊魂が死後、地下帝国で生きていくために必要であった。

 

輝く平原の物語 (ウィリアム・モリスコレクション)

輝く平原の物語 (ウィリアム・モリスコレクション)

海賊に許嫁をさらわれたレイヴァン(大鴉)一族の若者ホールブライズは、彼女を取り戻すために、不死の王が支配する「輝く平原の国」へと旅立つ。海の向こうの若返りの不死の国や、騎士道精神を感じさせる台詞回しは楽しいが、物語の根本的な原理がよくわからないっつうか結局どういうことだったんだ。