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彼は夏でも厚い外套を着て、顔に包帯を巻き、藁のような髪で目を隠していた。ある時、酒に酔った若者が彼に難癖をつけた。「一体どんな顔をしているんだ?」 蹴り倒した彼に馬乗りになり、包帯を引き剥がす。しかしそこには何もなかった。ただ芳しい薔薇の香りが辺りに広がった。
 
5
列車が過ぎたあと、線路には無数の黄色い卵が残されていた。高台にあるこの場所には陽光が降り注ぎ、温められた卵は次々と孵化していく。生まれたのは白い肌の女の子で、互いに粘液にまみれた体を抱いていたかと思うと、身の内から湧き上がる怒りを感じ、復讐のために丘を下った。
 
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見張りの目をかすめて外に出た。土砂降りの中、道を進む。と、前方の林の陰に明かりが見え隠れする。あそこまで行けば逃げ切れる。明かりに向かって一目散に走る。ふと気付くと、服の端からほつれた糸が伸びている。何だ?と思った次の瞬間、途方もない力で身体が引き戻される。
 
(2011年8月22日、若干の修正)