4月第1週

金の鍵 (岩波少年文庫 (2130))

金の鍵 (岩波少年文庫 (2130))

ジョージ・マクドナルドがすごいのは読者に魔法の存在を確信させるところ。人間の論理ではかることのできない異界の論理が物語を支配していて、フェアリーテイルだと思って読み進めていくと、いつのまにか幻想の彼方に連れ去られたことに気付きます。この短編集の表題作「金の鍵」は特にそれが顕著で、文字を追いながらも「これは読んで大丈夫なのか?」と変に不安を感じるほど、ファンタジーを飛び越えて神話の域に達した物語に幻惑されました。童話全集に手を出そうかな。
 
文章の書き方 (岩波新書)

文章の書き方 (岩波新書)

文章を書くにあたっての心構えを説いたエッセイ。それほど目の覚めるようなすごいことが書かれているわけではありませんが、常に胸に留めておきたい基本事項ばかりです。自分の場合は変に凝り固まってしまう傾向があるので、特に「均衡」を意識したいですね。早速石版に刻んでデスク横に設置しました。
 
グレイ・ラビットのおはなし (岩波少年文庫 (004))

グレイ・ラビットのおはなし (岩波少年文庫 (004))

瀬田貞二さんの本で紹介された第一話を読んでましたが、瀬田さんが仰っていた通り「行きて帰りし物語」としての完成度がとても高い作品です。自然の描写の細やかさ、生き生きとしたキャラクターや小道具。どこをとってもきらきらしていて、たとえば作中登場の料理を書き出してみても、アリのタマゴのスクランブル・エッグ、プリムローズ酒、からつき焼きドングリ、山リンゴのサイダーなど、字面だけで想像をかきたてられます。食べ物がおいしそうなのは良い作品ってことで(笑)、傑作の呼び声が高いのも頷けました。
 ナショジオといえどもネットで画像や動画が見られる今となってはこういう本は厳しいかもしれない。動物の写真がわりと多めなので純粋に風景を楽しみたい場合は別のものを。
 
天からふってきたお金―トルコのホジャのたのしいお話 (岩波おはなしの本 (9))

天からふってきたお金―トルコのホジャのたのしいお話 (岩波おはなしの本 (9))

ホジャとは日本の一休さん吉四六さんにあたる人物のこと。トルコ系民族のあいだではポピュラーな存在だそうです。とんちのきいた受け答えができて王様にもひるまず、そのくせ時々は失敗もする人物というのはどこの国でも好かれますね。イスラム教を感じさせながらもゆるいユーモアが心地よかったです。
 
大どろぼうホッツェンプロッツ (新・世界の子どもの本―ドイツの新しい童話 (1))

大どろぼうホッツェンプロッツ (新・世界の子どもの本―ドイツの新しい童話 (1))

大どろぼうホッツェンプロッツに盗まれたコーヒーひきを取り戻すために二人の少年が奔走します。そこに悪い魔法使いまでが現れて……。『クラバート』もそうですがどこか民話的な趣があるのがいいですね。何度か映像化されているようで一番新しいものは2006年に公開。機会があればこちらも見てみたいところです。
 
ユーラシアの創世神話―水の伝承

ユーラシアの創世神話―水の伝承

ユーラシアの神話の淵源はメソポタミアにあるとして、各地の神話にどのような形でそれが表れているかを検証する。天上覇権神話、創造神話、洪水神話、不死神話、羽衣伝説などを水の神話素に注目して読み解いていくとメソポタミアの水神エアの周辺に収斂していくのですが、ちょっと論の進め方が強引かなという気はする。とはいえこの伝播の様態は一面の真実でもあるのでしょう。メソポタミアの後日譚をプロメテウス神話に読み取り、そこから聖書へ流れていくというのは面白かったです。これから神話を読んでいくにあたって取っ掛かりになりそうな。