桜の樹の下には

桜の樹の下には雪が埋まっている
焼け残った桜の樹の下には
百年前の粉雪が
いよいよ冷たく固まっている
ほのかに白光を帯びて
樹の根とたわむれ
黄泉と混じり合い
はるかな夢にまどろんでいる
時には地上に浮き出たそれを
人がすわぶり食らうこともあるが
誰も自分が何を食べているのか
一向に気付いていない
なんとなればこれらの雪が
あまりに花の姿に似ているために
人は鬼のようになって
鬼は人のようになって
何ひとつ区別がつかなくなるのだ
溶け落ちた水は地に染み透り
冷やされてまた雪に戻る
結晶は静かに育ち
地上の樹は山火事のごとく
ものすごく燃えさかる
そのようであるからし
桜の樹の下には雪が埋まっている
あやしいほどの夕暮れに
たらたらと湧き出た血が
坂を汚すこともある