6月第4週
ステレオタイプな子供像、そしてそれを生きる「子供のまま大人になった人たち」について、著者自身のエピソードを交えながら語られる。イノセントとは「暗黙の了解で世の中が成り立っていることをいまだ知らない」状態のことで、それゆえ著者はイノセントが侵されていくさまを思って鬱屈としてしまうらしい。また同時に、世界への純粋な驚きが生を賦活させることを認め、驚きをなおざりにして歪なステレオタイプを生きる人々を糾弾する。春日先生の人生観が窺える一冊。キッチュへの嗜好を見据えた姿勢がとても好きです。
イノセントは、残酷さと結びつきやすい。残酷であるということは、当人を含めた誰かが、あるいは何かが取り返しのつかない目に遇うということである。そのとき、世界は不意に予想外の相貌を顕し、それまでとはまったく異なった意味が日常に付加されることになる。
レヴィ=ストロースを柱に構造主義の思想的意義と背景を紹介するやさしい入門書。人類学・言語学・数学のハイブリッドとしての構造主義がどのようなインパクトを与えたかがまとめられている。特に数学との関わりが注目され、主体の権威を解体するという大きな流れの中で構造主義が醸成されたのがよくわかる。先にレヴィ=ストロースの著作に触れておいたのが助けになった。最後のブックガイドの章は選手入場という感じ。あまり思想や哲学に深入りするつもりはないけどフーコーとロラン・バルトあたりには触れてみたい。
ヒューマンエラーを「麻雀やポーカーの役のような」複合的なものと考え、問題の解決・防止を図るとともに、エラーが起きた原因の原因へと掘り下げて多角的・大局的に捉える姿勢を促す。そもそも問題を完全になくすことは困難(第一番の問題を取り除くと、第二番が昇進する)であり、次に現れる問題に対して常に構えていなければならない。また、縦割りによる専門化で責任が拡散することへの注意を喚起し、環境・組織全体が問題に取り組む必要があるとする。個人的にはエラーを起こさせ利用するという方法が意外だった。
エラー抑止として挙げられているのは三点。
- 作業を行いやすくする。ヒューマンエラーの発生頻度を抑制する。
- 人に異常を気づかせる。損害が出る前に事故を回避できるようにする。
- 被害を抑える。小さな事故が大きな事故に発展しないようにする。
人間は、自分の技能や経験や立場に適合するように、問題を捉えがちである。そして特定の捉え方をしたのだという自覚がないことがある。問題の捉え方を定めた時点で、責任の行き先と、解決策も定まってしまう。問題の捉え方次第で、特定の関係者が責任から逃れることができる。
高校教師によるブックガイド。世界史との関わりにおいて日本あるいは個人を相対化するスタンスをとっている。科学や美術の本まで紹介されているのには間口を広くしようという意図が窺える。レベルも様々。参考にさせてもらいます。
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前半は前巻のおさらいをしつつ、脳は「入力+ゆらぎ=出力」あるいは「構造+ノイズ=機能」のプロセスで動く単純なものであるとして、我々が心や自由意志に抱く幻想を壊していく。そして後半、ただ幻想を壊すだけではなく、出力から入力へ、機能から構造へのフィードバックを脳の活動で例示し、リカージョン(再帰)の構図を描き出す。ということは、知ることができれば(フィードバックして)もっと意識的に使い回すこともできるという話になるんだよね。しかもこれは様々に応用できそう。脳科学がこんなに使えるものだとは思わなかった。
進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線
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脳科学者とコピーライターによる対談。「頭の良さ」をフックに脳の仕組みを教えてくれる。対談ゆえ具体的なデータが少なかったり、糸井重里がちょっとゆるすぎるものの、啓発的な雑談と考えればこんなところかな。「脳の可塑性」を意識しながら他の本にあたってみます。