7月第1週

凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮文庫)
北森 鴻
新潮社
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民俗学ミステリ。民俗学は好きな分野なのでのびのびと読んだ。シンクレティズムという言葉を拾えたのは収穫。この本の中では「人が外来の要素を取捨選択し、社会環境やオリジナルの文化に沿った形で変形させ、自分のフィールドに取り込んでゆく作業のこと」と説明されている。
 
象が踏んでも―回送電車〈4〉
堀江 敏幸
中央公論新社
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旅とは、目に見える光景やモノにだけでなく、本来は触れることのできないなにかに触れることではないだろうか。したがって、現実世界での距離の移動など、そこでは機能しなくなる。

 

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力
ニコラス・A・クリスタキス ジェイムズ・H・ファウラー
講談社
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人間の様々な行動に影響を及ぼしているネットワークについて論じる。自明な事柄を長々と聞かされているようで少々つらくも感じたが、具体例やデータの提示はそれなりに説得力があり、あらためてネットワークモデルを念頭に世界を眺めてみることの必要を思った。ネットワークの土台にある模倣や規範の原理、あるいは意思決定が他人の影響を受けざるを得ない点には、もっと注意深くありたい。

ミルグラムは、実験で観察した服従に関して二つの解釈を示した。一つは、人は同調性によって動機づけられるというもの。人は意思決定を集団やそのヒエラルキーに委ねる傾向があり、ことに抑圧されているときはその傾向が強まる。もう一つは、人は自分の行動から乖離し、自分を他人の意思の道具として見ることができるというもの。そうすれば、自分の行いに責任を感じなくてすむからである。

 

四つの散文作品とエッセイ。作者によればその手法は「厳密な歴史的視座を守ること、(…)そして一見かけ離れているように見える事物を、静物画の手法において網の目のように結びあわせること」であるらしい。たしかにゼーバルトを読む面白さは隠れたネットワークをたどることにあるのかもしれない。もっとも、それは追憶や遺物、亡霊となって現在に立ち現れるのだが。
 認知科学を援用してセンス・オブ・ワンダーの仕組み、ひいてはSFの原理を考察し、その歴史・主題を検討していく。基本的にはフレーム理論に基づいた考え方で、センス・オブ・ワンダーを「新しい世界フレーム形成にともなう快感」と定義し、SFとは「因果関係を構成する因子が現実から逸脱してもかまわない物語」であるとする。なので、フレーム(やスクリプト)に科学技術など新たなアイデアを加えていくのがSFの骨子になる。「異化作用」を想起しながら読んだ。
 
本当は不気味で怖ろしい自分探し
春日 武彦
草思社
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自分探しも深入りしすぎると怖ろしいものを発見してしまうということが著者の経験や創作を交えて自由に語られる。「既視感の名所」というほどに不気味でいかがわしいエピソードの数々になぜか心地良さを覚えつつ、文章を書くことに自己の外在化を託す痛切さにも打たれる。厭世的に見えて実は熱い。
 
語られざるかぐやひめ―昔話と竹取物語
高橋 宣勝
大修館書店
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「なぜ竹取物語は昔話(口承文芸)として広く流布していないのか」を構造に注目して読み解く試み。外来のものである天人流謫の思想は日本の風土に馴染みづらく、それゆえ竹取物語は仏書漢籍に通じた知識人の創作なのではないかと結論づけている。また、垂直的な流謫の思想が馴染みづらいのは日本人の水平的宇宙観によるという考えを仮説として提示する。前半、昔話の構造とその背後にある論理について述べた部分がためになった。異文化が流入した場合、要素とともに構造も受け入れ側に合わせて変容する。

昔話は絶えず変容する。しかしその変容は構造の内部における変容であり、その意味で昔話は構造によって規定された文芸であるといえる。一方、昔話には伝承を担う人々の世界観や自然観が反映されており、昔話の構造も当然そうした世界観・自然観によって支えられている。これが昔話の一般的特性である。