7月第3週

何をやっても癒されない
春日 武彦
角川書店
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わりと自由なエッセイを集めたもので気楽に読んだ。『ミステリ・マガジン』に掲載されていたという「セールスマンの死」の話が後味悪くて最高。あと父親との記憶術の思い出も感動的だ。他の本で小説化されていたし、よほど重要なエピソードなんだろう。
 不幸や悲惨さを自分から選びとっているとしか思えない人たちについて。はたから見れば不可解に映るそれらの行為も、本人にしてみれば合理的な選択であるかもしれず、不幸を先取りすることでより大きな不幸を回避するための防衛機構になっているのではないかという。形のないものに形を与えて安らぎを得るわけで、不幸や狂気を選んでまで生にすがりつくことを思うと、異様さといじましさが入り交じった複雑な気分になる。
 
写楽・考―蓮丈那智フィールドファイル〈3〉 (新潮文庫)
北森 鴻
新潮社
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鳥居と神社の主客の逆転はちょっと面白かった。ミステリ部分はわりとどうでもいいというか、民俗学をネタにしたキャラクター小説の面が強いシリーズであった。
 フランス革命を作用・副作用の二面がある「劇薬」と考えて大まかな流れを解説する。これは評判に違わぬ名著だった。フランス革命の基本的性格をブルジョワ革命だとした説明はわかりやすいし、力が入った文章には思わず胸が熱くなる。特に歴史における傾向(トレンド、必然)と偶然や自由意志の関わりは、つまり歴史に対して個人は何ができるかということでもあるので、今後考えていく枠組みにしたい。歴史に「事件」の層と「傾向」の層を想定し、偶然や自由意志が作用するのは「事件」の層としながら、二層は密接に関係しているとする。
メモ:テロルの四つの原因。
1.敵にやられるのではないかという危惧の念から、「やられるまえにやっつけろ」という気持ちが生じる。
2.リーダーの不在。
3.大衆の屈折した心情と窮迫した生活。
4.自分たちこそ正義の担い手だと信じたこと。正義感と暴力は裏表の関係にある。
言い換えると、不安、客観性の欠如かな。
 
砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)
川北 稔
岩波書店
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「世界商品」である砂糖を通じて見る世界史。世界がダイナミックにつながっている様子がわかるのが世界史の面白さだと思うので、本書は入門書として格好の一冊だろう。ウォーラーステイン『近代世界システム』を読んでみたい。
 
くもはち―偽八雲妖怪記 (角川文庫)
大塚 英志
角川書店
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うーん、話が全然面白くない。有名人があれこれ登場して掛け合いをするのが楽しみどころかな。まあ息抜きに。
 
酔郷譚
酔郷譚
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倉橋 由美子
河出書房新社
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再読。今回は生臭さが先に立った。
 
FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記 (ハヤカワ文庫NF)
ロバート・K. レスラー トム シャットマン
早川書房
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最近わけあって聴取を受けることがあったのだけど、この本の中で凶悪犯との面接の際に使われていたテクニックが律儀に守られていて笑った。くつろいだ気分にさせて些細なことから徐々に核心に迫り、仕上げに幼少時のことを聞き出すという感じ。で、本の内容は、凶悪犯を作り出すのは幼少時の環境が大きな要因としてあるということで落ち着いてたような。快楽殺人者の紹介が多めで、派手でスケールが大きいように見えて実はせせこましいものだなあと変に感心した。