9月第1週

テロリズムとは何か (文春新書)
佐渡 竜己
文藝春秋
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テロリズムとは弱者による心の戦争である。それは人々の恐怖心を直接・間接的に煽り、要求を通そうとする。誰でも、いつでも、どこでもテロを起こせる。物理的暴力というより精神的暴力に訴える。また、弱者が起こす戦争であるからして、反撃のおそれが少ない対象にもテロの矛先が向く。こうした認識なくしてテロには立ち向かえないと著者は説く。卓見であろう。心が対象ということはより多くの人にアピールできればいいわけで、それゆえテロリストは報道を重視するというのが気になった。
 
服従の心理
服従の心理
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スタンレー ミルグラム
河出書房新社
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有名なアイヒマン実験のレポート。権威の下で人は容易に道具と化してしまうということが検証される。本文も興味深く読んだのだが、それにも増して訳者による問題点のフォローアップが良かった。組織への反抗を個人に期待しすぎるのは無理があるとして、組織のやることには組織で対応すればいい、と別の案を提示したのには目から鱗がぽろぽろ落ちた。いやもう言われてみればほんとその通り。というか、実験の中でも同僚たちが加わった場合の反抗はかなり有効と提示されているのだった。
 日本での講義録。人類学の意義と展望、文化相対主義について、質疑応答を交えながら噛みくだいて講ずる。異なった生き方に敬意を払い、人類学の知見から現代社会に助言を与えること。逆に「未開」とされる社会へのコミットは慎重を期するのみで、まだまだ暗中模索といった印象を受ける。文化相対主義の問題点についてはもう少し突っ込んでほしかったが、とりあえず議論の席に着くための前提は得られた。
助言をする人類学者の客観性はどう保証されるのかという疑問に対して、レヴィストロースは「複数人を参照して比較検討すればいい」と答えている。こういったところは本当に賢明。

私たちがもし、人間社会にとって多様性はなくてはならないものであるというほうに、賭けるという言いかたが許されるとするならば、今日、世界をおおいつくそうとしているこの均質的な大文明の内部に、「差異」が生じてくるのではないでしょうか。あるいは「差異」はもう生まれはじめているのに、私たちがその意義を理解していないだけかもしれません。

 

「自分の体験ばかりを確信犯的に真ん中へ据えて、あえて偏向に満ちた若者論を展開し、そして若者を論じる『論』についても悪態をついてみる試み」とのこと。足場を開陳した上での批判というか罵倒で、最後は世の中への呪詛となっているが故ないことではない。で、それはそれとして、言葉の貧弱さに起因する想像力の鈍麻や不全感についての指摘は、たびたび著者が主張するところであったものの、あらためて今のタイミングで読めてよかった。
ところで私は「盆栽を育てる若者」でした。